品種改良はどのように行われているのか、また、その歴史や近年注目されている新しい技術などを紹介します。

 

インデックス


1.品種改良は、遺伝子の変化を利用している

◎品種改良は、遺伝子の変化によって農作物の形や性質(形質)が変化することを利用しています。

遺伝子が変化するってどういうこと?

遺伝子は、両親から受け継いだすべての遺伝情報が書き込まれたゲノムの中に散在しています。

実は、遺伝子の実態は、DNAと呼ばれる物質です。DNAは、植物や動物では細胞の核にしまわれています。DNAは、通常は4種類の塩基(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン)が、決まった組合わせでつながり鎖状になっています。

そして、遺伝子は、これらの塩基がつながって並ぶDNA配列に基づいて、さまざまな形質のタンパク質を作るための遺伝情報を持っています。

ということは、農作物が持つある遺伝子のDNA配列が変化すると、タンパク質の遺伝情報にも変化が生じて、違った形質が現れるようになります。

2.自然界で発生する遺伝子の突然変異

自然界では、太陽から照射される紫外線などによって遺伝子のDNA配列の一部が切断されることがあります。生物は、切断されても元通りに修理する仕組みを持っていますが、まれに元のDNA配列に違いが起こることがあります。

そうすると、遺伝子が本来持っていた働きにも変化が生じて、その形質に変化が生じます。これが突然変異です。

人類は古来から、栽培している間に現れた突然変異を起こした作物を利用して、農作物の形や性質を自分たちが欲しいものへと作り変えてきました。

例えば、イネやコムギの祖先は、籾(もみ)が落ちやすいという性質があるため収穫量が減ってしまいました。しかし、長く栽培を続ける中で、籾が落ちにくくなる突然変異が起きたものを選んできました。たくさん実っても倒れにくいように、背丈が低くなる突然変異もよく利用してきました。

また、ナスには受粉をしなくても果実が大きくなるものが見つかっていますが、これもナスが突然変異したものです。

 

 

3. 農作物の品種改良の進歩

■交配による品種改良

自然に突然変異が起こるのを待つだけでは効率が悪いので、新しい品種を作るためによく使われているのが、形質の異なる品種同士を掛け合わせる(交配)方法です。

まず、どのような形質の品種が欲しいかという目標を決めます。

例えば、「おいしくて病気に強い作物」を作るとしましょう。

今ある様々な品種の中から、「おいしい作物」と「病気に強い作物」を選び抜いて、一方の花粉をもう一方のめしべにつけて交配してできた実から種を採種します。

交配した作物は、メンデルの法則により、親品種が本来持っていた遺伝子の「おいしい遺伝子」と「おいしくない遺伝子」、「病気に強い遺伝子」と「病気に弱い遺伝子」がランダムに組み合わされた作物ができます。

その中から、目的の形質に近い作物を選び(選抜)、交配作業を何度も繰り返すことで、「おいしい遺伝子」と「病気に強い遺伝子」の両方を持つ作物を選んでいきます。こうして形質が安定して収穫されるようになれば新品種の完成です。

新しい品種を作るまでには、イネでは10年くらい、果樹では何十年と、長い年月がかかります。

〇イネの交配の様子がコチラ↓で紹介されています。
写真で学ぶイネの品種改良「交配」(農研機構)

■人為的な突然変異育種と遺伝子組換え育種

交配による品種改良では、交配の親としてさまざまな特性の品種を数多く用意しておくことが必要です。そのため、品種改良を行う種苗会社や研究所では多様な品種の種子を保管しています。

それでも、目的の性質をもつ品種が見つからないこともあります。そのような場合は、遺伝子を変化させて目的に合ったものを新しく作る必要があります。

そのために、放射線や化学物質等を用いることで突然変異を起こさせたり、遺伝子組換え技術で他の生物の遺伝子を入れたりすることで、目的の性質を持たせる品種改良の方法が開発されてきました。

品種改良の歴史

このように、これまで私たちが行ってきた品種改良の歴史は、

①自然界で起きた突然変異を利用する方法
②異なる品種をかけ合わせる交配育種
③放射線を用いる人為的な突然変異育種
④別の生物から目的とする遺伝子を導入する遺伝子組換え育種

と発展してきました。(育種とは、品種改良とほぼ同じ意味で使われています。)

さらに近年では、

⑤ねらった遺伝子に効率よく変異を導入するゲノム編集技術が研究・開発されています。

ゲノム編集 品種改良

4.新しい品種改良技術「ゲノム編集」

近年注目されている新技術が、ゲノム編集です。

この技術も人為的に遺伝子を変化させて、目的に合ったものを新しく作りだす品種改良技術の一つとして、その利用が研究・開発されています。

ゲノム編集は、ねらった遺伝子に効率よく変異を導入することができるため、従来の品種改良に比べて短期間で新しい品種を作ることが可能になりました。

地球温暖化に対応した「高温に強い」品種作りが急務

近年の夏季の高温化の影響により、玄米が白く濁ったり収量が減る、野菜がきちんと受粉せず実が大きくならないなどが原因で、十分な供給量が確保できずに価格が上がる、品質が低下するなど、農作物の栽培にさまざまな問題がでてきています。

品質の良い農作物が安定して供給されるためにも、地球温暖化に迅速に対応できるような「高温に強い」品種も求められています。

参考リンク