品種改良は、遺伝子の変化を利用したもの

野生の植物を栽培できるようにしたり、色々な目的に合わせた品種を作ったりする品種改良は、遺伝子の変化によって植物の性質が変化することを利用しています。遺伝子は、親から受け継いだすべて遺伝情報が書き込まれたゲノムの中に散在しており、親から受け継いだ性質を決定づけるいわば設計図となるものです。ゲノムも遺伝子もその実態は、DNAと呼ばれる生体高分子で、植物や動物では細胞の核に格納されています。DNAは、4種類の塩基(A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトシン)をひとつ持つ4種類の核酸が長く並んだひも状の高分子が、2重らせんを形作るように絡まった図のようなリボンのような物質です。遺伝子を構成するDNAの核酸の塩基の並び方、すなわちDNA配列に基づいて、体を形作るのに必要なタンパク質が作り出されて、生物の形や性質の違いなどが決まります。つまり、植物の遺伝子のDNA配列が変化すると、体を形作るのに必要なタンパク質が変化して植物の性質が変化するわけです。品種改良は、こうした遺伝子の変化によって生じた親とは性質の異なる植物品種の中から、人類にとって有用な性質を持った植物品種を選抜し育成することにほかなりません。

生物の細胞の中では、太陽から照射される紫外線等によってDNAが切断されることがあります。生物は、それを元通りに直す仕組みを持っていますが、まれに元とは違う並び方になることがあります。これが突然変異です。これまで、私たちが行ってきた品種改良の歴史は、①自然界で起きた突然変異により性質が変化したものを選抜することから始まり、②異なる品種をかけ合わせる交配育種(交配による品種改良のことです)や、③別の生物から目的とする遺伝子を導入する遺伝子組換えが利用されるようになりました。更に現在、④ねらった遺伝子に効率よく変異を導入することができるゲノム編集技術が開発されています。

自然に発生する突然変異の利用

人類は、栽培している間に現れた突然変異を起こした作物を利用して、古来より人間が希望する方向へ作物の性質を変えてきました。例えば、イネやコムギの祖先は、籾(もみ)が落ちやすいという性質があるため収穫時のロスが大きかったのですが、長く栽培を続ける中で、籾が落ちにくくなる突然変異が起きたものが選ばれてきました。たくさん実っても倒れにくいように、背が低くなる突然変異もよく利用されてきました。また、ナスには受粉をしなくても果実が大きくなるものが見つかっていますが、これも普通のナスが突然変異したものです。

 

交配育種(交配による品種改良)

目的の突然変異が起きるのを待つだけでは効率が悪いので、新しい品種を作るためによく使われているのが、性質の異なる品種同士を交配する方法です。まず、どのような性質の品種がほしいかという目標を決めます。たとえば、おいしくて病気に強い品種を作るとしましょう。今ある様々な品種の中から、目的の性質を持つもの(おいしい品種と病気に強い品種)を選び出し、一方の花粉をもう一方のめしべにつけ、種子をとります(交配)。すると、おいしい品種の遺伝子とおいしくない品種の遺伝子、また病気に強い遺伝子と病気に弱い遺伝子の両方の遺伝子を持つ種子ができます。得られた種子をまいて、目的の性質に近い性質のものを持つものを選び(選抜)、さらに交配の親として用いた品種と交配するという作業を何回も繰り返すことで不要な性質(遺伝子)が必要な性質(遺伝子)に置き換わったものを選んでいきます。性質が安定すれば新品種が完成です。新しい品種を作るまでには、イネでは10年くらい、果樹では何十年もかかります。

新しく開発された品種改良技術

交配による品種改良では、交配の親として様々な特性の品種を数多く用意しておくことが必要です。そのため、品種改良を行う種苗会社や研究所では多様な品種の種子を保管しています。それでも、目的の性質をもつ品種が見つからないこともあります。そのような場合は、遺伝子を変化させて目的に合ったものを新しく作る必要があります。そのために、放射線や化学物質等を用いることで突然変異を起こさせたり、遺伝子組換え技術で他の生物の遺伝子を入れたりすることで、目的の性質を持たせる方法が開発されてきました。ゲノム編集技術も遺伝子を変化させて目的に合ったものを新しく作りだす品種改良技術の一つとして、その利用が研究されています。新しい品種を作る方法は様々ですが、どれも遺伝子の変化による性質の変化を利用しています。