掲載日:2023.7.25
概要
CHICは新しい植物育種技術を用いたチコリの開発、コミュニケーションツールの実装を行うプロジェクトです。アートとサイエンスを結び付けたバイオアートを通して、社会問題についてのメッセージを発信し、科学と社会のつながりについての発見が得られる取組が行われています。
詳細
CHIC(Chicory Innovation Consortium)1は、新しい植物育種技術(NPBT)を用いたチコリ (Cichorium intybus L.)の開発、ステークホルダー間の連携や一般の方とのコミュニケーションツールの実装を行うプロジェクトです。このプロジェクトは、オランダのワーヘニンゲン大学を代表機関として、ヨーロッパ11か国とニュージーランドの中小企業、非営利団体、研究機関などから構成されています。
CHICではイヌリンを増加したチコリの開発を目指しています。チコリは高収量、低農薬で栽培できるものの、育種に時間を要することから、NPBTを活用した品種開発が求められています。
しかし、EUではNPBTが食品の安全性や環境に与える影響が懸念されており、明確な規制や政策が示されていないことから、業界が開発を実行できていません(CHIC政策提言2より)。
そこでCHICは、高校生向けに新しい植物育種技術を効果的に学習できる拡張現実(AI)や仮想現実(VR)を用いたゲームの提供、大学生・博士課程向けにCRISPR/Casに関連したワークショップを行いました。
さらに、責任ある研究とイノベーション(RRI)の理念を踏まえ、アーティスト(映画製作者、芸術家など)による、アートとサイエンスを結び付けたバイオアートの制作が実施されました。
ここでは、バイオアートの取組を簡単に紹介いたします。
アーティスト・イン・レジデンス(AIR: Artist-in-Residence)プログラム3では、2組のアーティストがラボに招かれ、ラボで行われる実験や研究者との交流から得られたインスピレーションをもとにバイオスアート作品を制作しました。
■AFTERTASTE: The Molecular Orchestra4
映像・音楽などを用いてフレーバーの感覚が表現されるメディアアート作品です。観客はチコリの風味やチコリに含まれる成分がもたらす健康効果について、アート作品を通して考察します。
■Biotechnology from the Blue Flower5
仮想現実(VR)と現実空間の両方に存在できる新しい彫刻です。VR上の青い花(チコリ)の彫刻は、研究室でのビデオ映像や、3Dスキャン、モデリング技術によって研究プロセスから得られたデータと融合し、ビデオマッピングやセンサー技術などのデジタル技術によって製作されました。最終的にはVR上の彫刻が3Dプリンターによって現実の彫刻で表現されます。彫刻の中には、アーティスト自身がラボで作成したCRISPRで改変された葉が含まれています。
アーティストはこのプログラムを通してインスピレーションが得られ、バイオアートを用いて社会の問題についてメッセージを発信できます。また、アーティストを受け入れた科学者は、アート作品の制作過程でのアーティストとの交流を通して、科学と社会のつながりについて気づきを得ることができます。
用語解説
関連リンク
- CHICプロジェクトのサイト
- 欧州の植物育種における新しいゲノム技術に関する政策提言 (Policy Recommendations)
- AIR プログラム(CHIC ASN AIR PROGRAM)
- Aftertaste: Molecular Orchestra(バイオアート作品)
- Biotechnology from the Blue Flower(バイオアート作品)
- 著者: 山口 富子(国際基督教大学 教養学部 アーツ・サイエンス学科 教授)
- 編集協力: 石井 花菜(国際基督教大学)/農研機構企画戦略本部新技術対策課