掲載日:2023.4.25

概要

英国生化学会と英国遺伝子細胞治療学会は共同で、Scientific Scissors(科学のはさみ)と呼ばれる体験プログラムを実施しました。来場者には、ジェンガを用いてCRISPR/Cas9の仕組みを学ぶ “Genetic Jenga” と、ゲノム編集技術の倫理的課題について研究者や他の来場者と対話を行う “The ethical card game” という学びの場が提供されました。

Genetic Jenga

ジェンガの各ブロックに遺伝子のDNAコードが書かれており、はさみ遺伝子(Cas9)に見立てた実験用トングで、説明書のとおりにブロックを抜き取ったり、別のブロックを入れて置き換えたりすることでCRISPR/Cas9がどのような働きをするのかを学ぶことができます。

 

The ethical card game

 

The ethical card gameは、遺伝子工学の用途や倫理的問題について、大人から子供まで参加して体験できるゲームです。間接的に他の来場者と対話を行うこともできます。
はじめに、43枚のうち1枚カードを取ります。そこには、ゲノム編集技術を応用してできる事柄とその利点・欠点が書かれています。つぎに、来場者はブースにいる研究者とカードに記載された内容をもとに、ゲノム編集技術の詳細や倫理的課題について話し合います。最後に、議論した内容をもとに、自分の意見を決めて、賛成の場合には「YES」と、反対の場合には「NO」と記載された洗濯ばさみで挟みます。

さらに、すでに他の来場者によって賛成と反対のいずれかに置かれたカードを動かす場合は、理由を説明することで移動することもできます。このゲームで使用されたカードなどはウェブ上で公開されており、だれでも使用することができます。

この体験プログラムを通して、参加者は “The ethical card game”にて専門家と話す過程で、多くの方がゲノム編集に関する意見を変えたり、別の視点を検討するなど、ゲノム編集技術に対して、楽観的であったり、寛容で意欲的でした。また、ゲノム編集技術の対話を行うことに好意的であり、正解がない問いへの挑戦を楽しんでいました。研究者や教員は倫理的なトピックを議論する資料がすぐに利用できるかという点を重視していることが分かりました。

Scientific Scissorsのウェブサイトには、活動の様子や、ゲノム編集技術の研究開発に携わる研究者らが市民とどのように向きあっているのかについてのインタビューが公開されています。市民と対話をすることがなぜ必要なのか、誰と何について対話をすべきかなど、さまざまな観点から社会におけるゲノム編集技術について問題提起が行われています。

用語解説

  1. Biochemical Society(英国生化学会): 分子生物学の未来を切り開いていくことを目的とする学会組織
  2. British Society for Gene and Cell Therapy(英国遺伝子細胞治療学会): 遺伝子や細胞を用いた技術を実験室から臨床へと倫理的かつ効率的に移行させることを目的とする学会組織

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  • 著者: 山口 富子(国際基督教大学 教養学部 アーツ・サイエンス学科 教授)
  • 編集協力: 石井 花菜(国際基督教大学)/農研機構企画戦略本部新技術対策課