掲載日:2022.11.29

概要

英国は、新技術の導入が進む一方で、食料システム及び人々に与える影響が懸念されています。特に、ゲノム編集動物の育種は独特な倫理的問題を生む、と英国政府が述べていることから、「バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC)*において、ゲノム編集動物について一般市民を対象とした対話が行われました。

詳細

英国は、EUからの離脱により、新技術の導入をより早く進めることができるようになる一方で、技術革新のスピードと取扱い方法が、食料システムや関係者に大きな影響を与えることを懸念しています。

特に、動物育種におけるゲノム編集技術の利用は独特の倫理的問題を生む、と英国政府が2021年の遺伝子技術に関する協議の際に提起しています。

そこで、バイオテクノロジーに関する市民対話を行ってきた「バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC)」において、『英国の将来の食料供給におけるゲノム編集動物の役割』というテーマで、80人の一般市民を対象とした対話及び数名の専門家からの情報提供の公開討論会が行われました(2022年5月から7月に4回開催)。

討論会を通して、参加者からは以下のような意見が得られました。

・ゲノム編集技術は、生産性の向上や消費者にベネフィット(利益)がもたらされる等の困難な社会課題に対応できそうな技術である。それに加えて、家畜の健康にも貢献したり、無農薬農法の促進、廃棄物の低減につながる技術となれば良い。

・通常の品種改良と区別がつかない技術だとしても、ゲノム編集家畜は自然な感じがせず、動物の遺伝子を編集することが良いのか悪いのかについての判断は難しい。

今回の公開討論会を通じて、多くの参加者が、”研究や食料問題についての理解を深め、今後の食生活やライフスタイル、政策について積極的に考えたいと”回答しました。

BBSRCでは、市民対話プログラムの他にも、バイオテクノロジーの理解増進に向けて、さまざまなプログラムを積極的にすすめています。

用語解説

バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC):英国研究・イノベーション機構(UKRI)の分野別研究会議の一つであり、研究及び大学院教育の推進と支援を行う。科学と社会のより良い関係づくりを目指し、科学研究のあらゆるプロセスに市民を受け入れることが大切であるという理念を持っている。合成生物学やバイオエネルギー、バイオ科学など、これまでバイオテクノロジーに関連するさまざまな市民対話プログラムを行ってきた実績を持つ。

[本文に戻る]


  • 著者: 山口 富子(国際基督教大学 教養学部 アーツ・サイエンス学科 教授)
  • 編集協力: 石井 花菜(国際基督教大学)/農研機構企画戦略本部新技術対策課