掲載日:2023.4.25

概要

Science Stories Africaは、 “ストーリーテリングによってアフリカの人々の科学に対する認識の向上”を目的としたコミュニケーション・プラットフォームです。ストーリーテリングを用いた一般市民へのアウトリーチ活動と共に、科学者のストーリーテリングのスキル向上のためのトレーニングを行っています。

詳細

Science Stories Africaは、“ストーリーテリング*によってアフリカの人々の科学に対する認識の向上”を目的とした一般市民向けのプラットフォームです。ストーリーテリングを用いた一般市民向けのアウトリーチ活動だけでなく、科学者のストーリーテリングのスキル向上のためのトレーニングを行っています。

このトレーニングにおいて、科学者たちは、自分たちの研究成果を一般の方にも理解しやすいように、簡略化されたストーリー形式で話す方法を学びます。

3~5日間のストーリーテリングとスピーチに関する集中トレーニングを受けた後、アーティストによるライブパフォーマンスと共に、観客の前で自分たちのストーリーを披露します。研究内容だけでなく、結果に至るまでの経緯や、研究での苦労話などを話すのが特徴的です。YouTubeを通して、科学者によるストーリーテリングや劇場でのライブパフォーマンスを視聴することができます(関連リンク参照)。

2021年にYouTubeで公開された“A genome editing platform for Africa” では、The International Institute of Tropical Agriculture (IITA) ケニア支部・植物バイオテクノロジー担当主任研究員のLeena Tripathiさんの『CRISPR/Cas9を用いた耐病性バナナを開発した物語』が紹介されています。

◎以下、Tripathiさんのストーリーテリングの要約です。

物語は、2004年7月12日にウガンダで同僚の送迎中に目撃した、枯れたバナナ農場での悲痛な体験から始まります。バクテリアの感染によってバナナが腐り、枯れ、農家は生活に困窮し、農場主は涙を流していました。この問題を解決したいと考えた彼女は、2012年ピーマンの耐性遺伝子をバナナに導入した「耐病性バナナ」を開発しました。

しかし、遺伝子組換え作物の規制により流通させることができなかったため、CRISPR/Cas9を用いた耐病性バナナの開発に力を入れ始めました。当時、アフリカ国内でCRISPR/Cas9を用いた例はありませんでしたが、実験施設やバナナの遺伝子情報、プロトコルなど、開発に必要な材料は揃っていました。そして、2019年に世界で初めて耐病性バナナの開発に成功しました。

彼女は最後に「2004年に枯れたバナナ農場で出会った農家が、私の開発した耐病性バナナを育て、それを食べ、それをもとに生活ができるようになった時、初めて私の目標が達成できたと言えます。」と語りました。

Science Stories Africaの企画者は、遺伝子組換え作物やゲノム編集技術などの話題に懐疑的な人たちに、より多く触れてもらうため、科学者にストーリーテリングをしてもらうと述べています。

用語解説

*ストーリーテリング:経験談などのストーリーを利用し、自分の主張を相手に、より明確に伝える手法

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  • 著者: 山口 富子(国際基督教大学 教養学部 アーツ・サイエンス学科 教授)
  • 編集協力: 石井 花菜(国際基督教大学)/農研機構企画戦略本部新技術対策課