【おことわり】
この用語集では、「わかりやすく」説明することに重点を置いています。学術的に厳密な説明を必要とされる場合には、他のサイト・資料等もご確認ください。


RNA

【英語表記】Ribonucleic Acid
【用語説明】リボ核酸の英語名の略称でアールエヌエイと読みます。リボースと呼ばれる糖と、塩基およびリン酸からなるヌクレオチドが連なってできた酸性物質です。それぞれのヌクレオチドは、糖とリン酸部分の構造は同じですが、塩基にはアデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類があり、RNAは4種類のヌクレオチドが鎖状に何個も連なった分子です。同じく核酸の一種であるDNAに書き込まれている遺伝情報を写し取り、タンパク質の合成に用いられるメッセンジャーRNA(mRNA)や、タンパク質が合成される際にmRNAの情報に従って必要なアミノ酸をタンパク質合成の場(リボソーム)まで運搬してくるトランスファーRNA(tRNA)、リボソームを形作るリボソームRNA(rRNA)等があります。この3種類のRNAは、いずれもタンパク質合成の際に重要な働きを担っており、生命の根幹に関わる物質です。mRNAが作られるときには、1本鎖のDNAの配列を下敷きにAにはUが、TにはAが、GにはCが、CにはGの塩基が対合しながら合成されることで、正確にDNAの配列情報を写し取ります。

アガロース・ゲル電気泳動

【英語表記】Agarose Gel Electro-phoresis
【用語説明】DNAを分子量の大きさごとに分離する方法。DNAはマイナス電荷を持つので電解質の中で電圧をかけると、プラスの電極側に移動します。その際、DNAの通り道となる担体としてアガロース(寒天)を用いると、アガロースはゲル状でスポンジのような網目構造をもつため、DNAの大きさによってふるい分ける「ふるい」の役割を果たし、アガロースの孔を通過しやすい短いDNAほど移動が速く、長いDNAほど移動が遅くなるので、アガロース・ゲル電気泳動によってDNAを長さごとに分離することができます。

アグロバクテリウム

【英語表記】Agrobacterium
【用語説明】土壌中にいる細菌で、接触した植物の細胞に自分の遺伝子の一部であるT-DNA遺伝子を送り込む性質を持っています。このT-DNA遺伝子は、プラスミドと呼ばれるアグロバクテリウムの細胞内で独自に複製する環状DNA上に存在しています。アグロバクテリウムによって、T-DNA遺伝子を組み込まれた植物は、腫瘍であるこぶ状の塊(クラウンゴール)や無数の根などを生じ、アグロバクテリウムの生存に必要な栄養素(アミノ酸)を作りだします。このようにアグロバクテリウムのT-DNA遺伝子は、接触した相手の植物にアミノ酸と植物ホルモンを合成させる働きを持っています。この性質を利用し、アグロバクテリウムが持つプラスミド上のT-DNA遺伝子の代わりに、他の生物が持っている様々な遺伝子を組み込み植物の中で発現させることで、それまでにはない新しい性質を持つ遺伝子組換え植物を作り出すことができます。こうしてアグロバクテリウムを用いて、その作物が持っていない様々な遺伝子を植物に持たせることで植物の遺伝子組換えが行われ、これまでに、多くの遺伝子組換え植物が作り出されています。

アデニン

【英語表記】Adenine
【用語説明】DNAやRNAなどの構成成分です。DNAはリン酸、糖(D-デオキシリボース)、塩基からなる化合物(ヌクレオチド)がいくつもつながったものです。その塩基成分にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類が存在しますが、アデニンはそのうちの1つで、遺伝子設計図の元となる化学物質の1つです。 DNAの二重らせんの中では必ずチミン(T)と結合して塩基対を形作っています。

アミノ酸

【英語表記】Amino Acid
【用語説明】生物体の源となる栄養成分。筋肉や皮膚等、生物の体を作っている成分はタンパク質で、そのタンパク質を構成しているのがアミノ酸です。 20種類のアミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン、グリシン、セリン)から自然界のタンパク質は構成されており、どのアミノ酸もアミノ基(-NH2)とカルボキシ基(-COOH:以前はカルボキシル基と呼んでました)を持ちますが、その他の構造が変わることにより、アミノ酸の種類も変わってきます。タンパク質は、その種類によってアミノ酸の配列順序が異なり、生物がタンパク質を作り出すときは、アミノ酸を一定の配列順序でつなげていくシステムが必要となります。この一定の配列順序は、タンパク質の設計図である遺伝子のDNA配列に由来しています。また、動物の体内で合成できないアミノ酸を必須アミノ酸、他の物質から合成できるものを非必須アミノ酸といいます。ヒトの必須アミノ酸として、トリプトファン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、スレオニン、ヒスチジンの9種類があります。

アレルギー

【英語表記】Allergy
【用語説明】外来の異物(抗原)を排除するために生物が引き起こす免疫反応が、特定の物質(抗原)に対して過剰に起こることです。免疫反応は、生体にとって不可欠な生理機能ですが、ある種の抗原に過剰な反応を起こし、自己に障害を与えることがあります。気管支ぜんそく、花粉症、ソバアレルギーなどが代表的なアレルギーです。

 

アレルゲン

【英語表記】Allergen
【用語説明】アレルギーを起こす物質の総称。 アレルゲンは、免疫反応が過敏に働く一部の人において「異質なもの」または「危険なもの」と免疫反応によって認識され、体に悪影響を及ぼすアレルギーを引き起こします。多くの人においては何の反応も引き起こしません。一般的なアレルゲンとしては、ある種の接触物(化学物質や植物など)、薬品(抗生物質類、血清など)、食物(小麦、そば、卵、乳、落花生など)、感染因子(バクテリア、ウイルス、動物の寄生生物など)、吸入物(ホコリ、花粉、香水、煙など)があります。


育種

【英語表記】Breeding
【用語説明】生物のもつ遺伝的性質を利用して、収穫量が多い穀物や美味しい野菜、たくさんミルクがとれる牛など、利用価値の高い作物や家畜の新種を人為的に作り出したり、改良したりすることを育種といいます。人類が農業や牧畜を開始して以来、育種は絶え間なく行われてきました。現代の作物の育種では、病気に強くなる耐病性、害虫の被害が少なくなる害虫抵抗性、乾燥に強いなどの環境ストレス耐性、美味しくなるなどの品質、あるいは健康によい成分を多く含むなどの機能性等を、高めた作物の開発を目指して育種が行われています。品種と品種を掛け合わせて育種を行う交配(交雑)育種法や、紫外線などで損傷した遺伝子を生物が修復する際に生じる突然変異を利用して育種を行う突然変異育種法、ゲノム編集技術や遺伝子組換え技術などのバイオテクノロジーを用いて育種を行う方法などがあります。品種改良とほぼ同じ意味で使われます。

遺伝

【英語表記】Inheritance, Heredity
【用語説明】カエルの子はカエル、ヒトの子はヒトといわれるように、顔や手足の形、皮膚や目の色、親と似た子供ができます。このように、それぞれの生き物がもつ形や性質を「形質」といい、親から子に「形質」が伝わる現象を一般に遺伝といいます。それぞれの生物が持つ「形質」は、その生物の持つ遺伝子によって決まります。この遺伝子は、生物の体を作り出すいわば設計図で、4種類の物質が鎖状に連なってできているDNAの配列情報として代々子孫にコピーされて受け継がれます。このように、遺伝によって体の設計図である遺伝子(遺伝情報)が受け継がれることにより、カエルの子はカエルに、ヒトの子はヒトになり、親とよく似た子どもができるわけです。

遺伝暗号

【英語表記】Genetic Code
【用語説明】生き物の設計図である遺伝情報は、DNAの配列情報として代々子孫にコピーされて受け継がれます。DNAは、DNAを構成する塩基、アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)を持つ4種類の化学物質が一列に様々な順番で連なった鎖状の物質が2本らせん状に絡み合った構造をしています。例えばヒトの場合には、A, T, G, Cの4文字がおよそ30億個連なったDNA配列情報の中にヒトの遺伝情報が書き込まれています。この遺伝情報には、生物の体の構成成分であるタンパク質の設計図が書き込まれています。タンパク質は、20種類のアミノ酸がやはりいろいろな順番で一列に連なってできていますが、それぞれのアミノ酸は、連続する3文字1セットのDNA配列で表すことができます。すなわち、20種類のアミノ酸は、それぞれ異なる3文字のDNA配列で暗号化されているわけです。そのため、タンパク質を構成するアミノ酸配列情報は、3文字ずつ区切られたDNA配列情報として表すことができます。この1つのアミノ酸を決めるDNAの3文字の配列情報を遺伝暗号(コドン)と呼んでいます。遺伝情報が書き込まれたDNA配列を3文字ずつ区切って読めば、アミノ酸配列情報を暗号解読することができます。

遺伝形質

【英語表記】Genetic Character
【用語説明】生物のもつ様々な形や性質(形質)のなかで、親から子へ遺伝するもの、後世に遺伝する形質のことです。 生物のもつ形質には、色、形、大きさなど、外見的なものから、体の中にある物質の合成能力や、寒さや暑さに強いなど内面的なものなど様々あります。

遺伝子

【英語表記】Gene
【用語説明】遺伝によって親から次の世代に受け継がれる形質(顔、皮膚や目の色など)を決定づけるいわば生物の設計図となるものが遺伝子です。遺伝子は、DNAの塩基配列(DNA配列)情報という形で生物のゲノムを構成するDNA分子の一部として存在しています。遺伝子を構成するDNA配列情報は、タンパク質を形作るアミノ酸の配列情報に変換されて、体を構成するタンパク質を作るための設計図として使われます。

具体的に説明すると、遺伝子のDNA配列情報は、細胞内で必要に応じてメッセンジャーRNAに写し取られて、リボソームと呼ばれるタンパク質合成を担う細胞小器官に運ばれてタンパク質が絶えず作り出されています。ゲノムのDNAがすべて遺伝子というわけではなく、ゲノムを構成する一連のDNA配列上に遺伝子が点在しており、遺伝子と遺伝子の間は、遺伝子の発現をコントロールする領域やRNAとして転写され機能する領域、あるいは、働きが分からないDNA配列などが存在しています。通常、1つの遺伝子には1種類のタンパク質というように、DNAの中に種類の違うタンパク質の配列情報が遺伝子としていくつも存在しており、生物のゲノムの中には体を構築するために必要なタンパク質のすべての配列情報が遺伝子として格納されています。生物が持っている遺伝子の数は、生物によって異なりますが、高等動植物では数万個の遺伝子を持っており、ヒト、イネ、ブタの場合は、約2万個から3万個の遺伝子を持っています。

遺伝子組換え技術

【略語・別称】組換えDNA技術
【英 語 表 記】Gene(tic) Recombination Technology
【用語説明】組換えDNA技術とも呼ばれ、ある生物が持つ有用な遺伝子を、改良しようとする別の生物のDNA配列に組み込むことにより新たな性質を持つ生物を作り出す技術です。細胞に他の生物由来の遺伝子を導入する方法としては、高圧電流等による物理的処理や、アグロバクテリウムなどの植物に寄生する細菌を利用する「アグロバクテリウム法」、DNAを金やタングステンの粒子に付着させ、DNAを導入したい細胞に直接打ち込む「パーティクルガン法」などがあります。

遺伝子組換え生物

【英語表記】Genetically Modified Organism(Living Modified Organism)
【用語説明】遺伝子組み換え技術によって、別の生物の遺伝子を組み込まれた生物を、遺伝子組換え生物と呼びます。一般的に、遺伝子組換え生物を作り出す手順としては、まず、ある生物のゲノムの中から有用な遺伝子を見つけだし、DNAの鎖を切断する作用をもつ酵素で有用な遺伝情報が含まれている遺伝子部分をDNA断片として分離します。分離されたDNA断片は、ウイルスやプラスミドから作られたベクターとよばれる遺伝子の運び屋のDNAと連結して、改良しようとする生物の細胞の中に導入し、その生物のゲノムに組み込ませたり、ゲノムとは別個に存在させたりすることで、新たな有用な形質をもつ生物を作り出すことができます。遺伝子組換え生物は、自然界に存在しえない生物であることから、通称「カルタヘナ法」と呼ばれる法律で、生物多様性に影響が生じないか否かについて審査を受け問題が無いと評価された場合のみその使用が承認されています。一方、人為的に遺伝子を操作して特定の性質を生物に与えた場合でも、遺伝子組換え生物として取り扱われない場合もあります。つまり、別の生物由来の遺伝子が組み込まれていない場合、例えば、その生物が元々持っている遺伝子の個数を増やしたり、ある遺伝子に変異を導入して働かせなくしたりしたような場合には、その生物は「ナチュラルオカレンス」といって、自然界でも生まれ出る可能性のある生物として法的には遺伝子組換え生物とはならず規制対象外とされています。

遺伝子組換え食品

【英語表記】Genetically Modified Food
【用語説明】遺伝子組換え農作物および遺伝子組換え農作物を加工して作られた食品のことです。例をあげると、遺伝子組換えダイズそのもの、あるいは遺伝子組換えダイズを加工して製造した味噌、納豆などの加工品も遺伝子組換え食品に含まれます。国内で販売されている遺伝子組換え食品は、すべて国によって食品としての安全性が確認され、販売・流通が認められたものです。遺伝子組換え食品の安全性については、厚生労働省のホームページやパンフレットで詳しく紹介されているので、もっと知りたい方はご覧ください。

厚生労働省ホームページ:遺伝子組換え食品
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/idenshi/index.html

遺伝子組換え食品の安全性パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/dl/h22-00.pdf

イネゲノム研究

【英語表記】Rice Genome Project
【用語説明】イネの染色体上にある有用遺伝子の位置や全塩基配列を調べる研究のことです。イネの塩基配列を解読するとともに、その中にある遺伝子の構造やその機能を解明しようというのが、イネゲノム(=イネの全遺伝情報)研究です。1991年度からわが国で始まった国家プロジェクトで、1998年には、日本が中心となって米国、中国、欧州など10カ国で、全塩基配列解読を分担して進めることになりました。イネゲノム研究で明らかになったゲノム情報は、病害虫や環境ストレスに強い植物や機能性作物の開発、効率的な育種法の開発に役立てることができます。2002年12月に、ほぼ全塩基配列が解読され、当時の小泉純一郎首相によりイネゲノム全塩基配列解読の終了が宣言されました。
【関連項目】ゲノム、染色体、遺伝子


ウラシル

【英語表記】Uracil
【用語説明】RNAの構成成分です。RNAは、リン酸と糖(D-リボース)と塩基が1つずつ結合してできたヌクレオチドがいくつもつながり形作られます。その塩基の成分にはアデニン(A)・ウラシル(U)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類が存在しますが、ウラシル(U)はそのうちの1つです。アデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)は、DNAの構成成分でもありますがウラシル(U)だけはDNAの構成成分ではありません。ウラシル(U)はDNA中のチミン(T)の部位で、DNAの遺伝情報がmRNAに転写される際に置き換わります。


SDN

【英語表記】Site-directed Nuclease
【用語説明】部位特異的ヌクレアーゼ、あるいは部位特異的核酸分解酵素のこと。人工ヌクレアーゼ参照。

F1

【略称・別称】ハイブリッド、雑種第一代、F1雑種、一代雑種
【英語表記】F1 Hybrid, Filial 1 Hybrid, First Filial Generation

【用語説明】異なる品種や系統の親を交配してできた子どもをF1(エフワン)と呼びます。店頭で売られている野菜の多くや、豚肉・牛肉などの精肉には、異なる親品種を交配して作ったF1品種が利用されています。F1品種は、遺伝的に均一であるため個体差が小さく性質が均一であることに加え、雑種強勢と呼ばれる現象により両親のどちらよりも優れた性質を示します。

塩基

【英語表記】Base
【用語説明】広い意味では、アルカリ性の化学物質全般のことを塩基といいますが、DNAやRNAの構成成分のうち、遺伝情報を担う5種類の弱アルカリ性成分のことを総称して塩基と呼ぶこともあります。DNAやRNAは塩基、糖、リン酸という3種類の化学物質が1つずつ結合した化合物(ヌクレオチド)が最小単位になっています。DNAを構成する塩基にはアデニン(A)・グアニン(G)・チミン(T)・シトシン(C)の4種類があります。一方、RNAには、アデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)はDNAと同様に構成塩基として含まれますが、チミン(T)は含まれず、その代わりにウラシル(U)が含まれます。核酸を形づくる塩基は、その構造から大きく2つに分けられます。アデニンとグアニンは、プリン骨格を持つプリン塩基、チミン、シトシン、およびウラシルは、ピリミジン骨格を持つにピリミジン塩基と呼ばれます。DNAの2重らせんの中、あるいはDNAとRNAの対合の際には、グアニンとシトシン、アデニンとチミン(シトシン)というふうに、プリン塩基とピリミジン塩基が、水素結合を介して塩基対を形成することで核酸の構造を保ちます。DNA分子中の塩基の並び方は、遺伝情報として細胞のゲノムの中に格納されて子孫に伝えられます。例えば、ヒトでは遺伝情報は30億個の塩基配列からできているといわれています。

塩基対

【略語・別称】bp
【英語表記】Base Pair
【用語説明】DNAは、リン酸、糖(D-デオキシリボース)、塩基からなる化合物(ヌクレオチド)が一列に様々な順番で連なった鎖状の物質(1本鎖DNA))が2本絡み合った二重らせん構造をとっています(2本鎖DNA)。DNAの二重らせん構造の中の2本のDNA鎖の間は、塩基と塩基が頭をつきあわせてアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)というように決まった組合わせで対をなし、水素結合により対合して二重らせん構造を形作っています。この塩基と塩基の対のことを塩基対といいます。生物が子孫を作るときには、二重らせん構造がほどけて、それぞれの1本鎖DNAの塩基配列に基づいて新たな1本鎖DNAが合成され、塩基対が再構築されることで、全く同じ配列情報を持つ2本の新しい2本鎖DNAが作られ、それぞれが子孫に受け継がれていきます。一方、1本鎖DNAとRNA鎖の間ではアデニン(A)とウラシル(U)、グアニン(G)とシトシン(C)が対合します。

塩基配列

【英語表記】Base Sequence
【用語説明】DNAやRNAは、構成単位である4種類のヌクレオチドがいくつも鎖状に長く連なってできていますが、このヌクレオチドのつながる順番を4種類のヌクレオチドがそれぞれ持っている塩基の並びで表したものを塩基配列といいます。DNAの塩基配列(DNA配列とも呼ばれます)では、DNAを構成する4種のヌクレオチドが有するアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの塩基の並び方を、A、T、G、Cの4文字で表します。DNAの塩基配列には、タンパク質の設計図となるアミノ酸配列情報が遺伝子として書き込まれており、たとえば、遺伝子のDNAの塩基配列が突然変異などで変わると、DNAの塩基配列に基づいて作られるタンパク質のアミノ酸配列も変わり、タンパク質の性質や働きも変わることとなります。一方、RNAでは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)はDNAと同様に構成塩基として含まれますが、チミン(T)は含まれず、その代わりにウラシル(U)が含まれます。従ってRNAの塩基配列は、A、U、G、Cの4文字で表されます。RNAが細胞内で作られる際には、1本鎖のDNAの塩基配列を下敷きにAにはUが、TにはAが、GにはCが、CにはGという具合に塩基が対合しながら合成されることで、正確にDNAの塩基配列情報がRNAの塩基配列情報として写し取られます。


オフターゲット

【英語表記】Off-target
【用語説明】英語を直訳すると「標的外」となります。最近、ゲノム編集技術について議論する際に頻繁に用いられるようになった言葉です。例えば、ゲノム編集で最近多用されるCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)システムを用いますと、標的となるゲノム上の特定の遺伝子に比較的簡単に変異を導入することができますが、同時に、標的以外の遺伝子にも変異を導入することがあり、この標的以外の遺伝子に変異を引き起こす効果をオフターゲット効果とよびます。このオフターゲット効果は、ゲノム編集を施したあと、戻し交配により目的の変異のみを持つ品種を選抜することができる作物の品種改良の際には特段問題にはなりませんが、遺伝病などの病気の治療のためゲノム編集を施した受精卵から赤ちゃんを生みだそうとする様な場合には、その赤ちゃんに予期しない変異による不具合が生じる可能性があります。そのため、たとえ治療目的であっても、 ゲノム編集を施したヒトの受精卵を胎内に戻して赤ちゃんを産ませる行為は、各国で規制する動きがあります。


核酸

【英語表記】Nucleic Acid
【用語説明】生物の体を作りあげている細胞の内部にある核に大量に存在し、酸性の高分子物質であることから「核酸」と名付けられました。核酸には、生物の遺伝情報を子孫に伝えたり、その遺伝情報に基づいてタンパク質を作る際の設計図(遺伝子)となるDNA(デオキシリボ核酸)と、DNAからタンパク質の設計図を写し取る際に用いられるRNA(リボ核酸)の2種類があります。この2つの核酸(DNA、RNA)は、塩基・糖・リン酸の3種類の化学物質からなり、この塩基・糖・リン酸が1つずつ結合した化合物(ヌクレオチド)が、連鎖状に、何千、何万にもつながっています。

カルタヘナ法

【用語説明】遺伝子組換え生物等の使用については、生物の多様性へ悪影響が及ぶことを防ぐため、国際的な枠組みが定められています。日本においても、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称「カルタヘナ法」)により、遺伝子組換え生物等を用いる際の規制措置を講じています。カルタヘナ法では、遺伝子組換え生物等を用いて行うあらゆる行為のことを「使用等」とし、使用形態に応じて「第一種使用等」と「第二種使用等」とに分け、それぞれの使用に応じて、とるべき措置を定めています。例えば、遺伝子組換えトウモロコシの輸入、流通、栽培など、遺伝子組換え生物等の環境放出を伴う行為は第一種使用等です。第一種使用等では、使用に先立ち、予定している使用によって生物多様性に影響が生じないか否かについて審査を受け問題が無いと評価された場合のみ使用の承認を受けることができます。一方、第二種使用等とは、遺伝子組換え生物等を、実験室や隔離温室など環境への放出が生じない空間で使用することです。第二種使用等についても、使用に先立ち、拡散防止措置が適切なものとなっているか確認を受ける必要があります。

完全長cDNA

【英語表記】Full-lengh Complementary DNA, Full-lengh Complementary Deoxyribonucleic Acid
【用語説明】ゲノムから取り出したメッセンジャーRNA(mRNA)の塩基配列情報を完全に写し取った相補鎖DNAのことです。ゲノムはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基が連なったDNAからできていますが、この中で遺伝子として働くのはごく一部(約5%)です。タンパク質合成においてDNAの遺伝子として働く部分(情報)だけを写し取ったmRNAが現れ、この情報をもとにタンパク質が作られます。つまり、mRNAの情報があれば人工的にタンパク質合成ができる可能性があるのですが、実験上このmRNAは不安定で取り扱いにくいものです。そのためmRNAに逆転写酵素を加えることにより配列情報を逆転写し、相補的な一本鎖DNAを作り出します。この人工的に作られたDNAはcDNAと呼ばれ、実験的な取り扱いが容易であるため、遺伝子を調べる際に用いられるようになりました。完全長cDNAは、mRNAの全長を反映したcDNAのことで、断片的なcDNAと異なり、全長のタンパク質を合成するための設計情報を有しているため、完全な長さのタンパク質を合成することができます。


グアニン

【英語表記】Guanine
【用語説明】DNAやRNAなどの構成成分です。DNAはリン酸、糖(D-デオキシリボース)、塩基からなる化合物(ヌクレオチド)がいくつもつながったものです。その塩基成分にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類が存在しますが、グアニンはそのうちの1つで、遺伝子の設計図の元となる化学物質の1つです。DNAの二重らせん構造の中では必ずシトシン(C)と結合して塩基対を形作っています。

組換えDNA

【英語表記】Recombinant DNA, Recombinant Deoxyribonucleic Acid
【用語説明】ある生物の生細胞内で複製可能なプラスミドやウイルスから作られたベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋となるDNA断片とその生物とは異なる生物から取り出された異種のDNA断片を、試験管内で結合させることにより作製された人工的に作り出されたDNAのことです。

CRISPR/Cas9

【用語説明】CRISPR/Cas9(改訂前はCRISPR-Cas9と表記していましたが、CRISPRとCas9の間はスラッシュ(/)で表記するように変更しました)はクリスパーキャスナインと読みます。生物のゲノムを人為的に改変するゲノム編集技術の一つで、ゲノム上の改変を行おうとする標的配列と相補的な一本鎖RNA(single guide RNA:sgRNA)とDNA鎖を切断する酵素活性をもつCas9人工ヌクレア-ゼ(ヌクレアーゼは核酸分解(切断)酵素の総称)を組み合わせることで特定の遺伝子に変異を導入するために用いられる技術です。sgRNAのデザインや作製が簡便な上に、技術的開発も進められており、さまざまな生物のゲノム編集で最も多用されています。CRISPR/Cas9がどのようなものなのか、どのようにゲノムの中から目的のDNA配列を見つけ出し、変異を入れて新しい作物品種を作り出すのかを説明する動画を用意しています(「ゲノム編集ツール、クリスパー/キャスナイン(CRISPR/Cas9)」)。是非ご覧ください。
なお、CRISPR/Cas9の研究成果に対して女性研究者2人が2020年ノーベル化学賞を受賞しました。詳細はこちらをご参照ください。
当サイトの「ゲノム編集とは」の記事もぜひご覧ください。

CRISPR/Cas9は、sgRNAを目印として狙った配列(標的配列)を切断し、切断部分の修復ミスによる変異や鋳型DNAをお手本とした修復により、配列を変えることができます。
CRISPR/Cas9による標的配列の切断の仕組みを分かりやすく例えると、

あなたが1万人収容できる大きなホールにコンサートを見に行ったとします。あなたの予約した座席は「G列35番」です。コンサート会場に入りましたが、広くて自分の座席の場所がどこにあるのか分からなくてキョロキョロしていると、親切な一人の会場係の人が声をかけてくれて座席まで案内してくれました。席に着くと他の人が座れないようにテープが張ってあります。着席するためには、入館した時に渡されたあなた専用のハサミでテープを切らないといけません。さて、この文章でどれがCRISPR/Cas9のシステムに相当するかというと、

1万人収容できる大きなホール=生物の細胞

整然と並んだ1万席分の座席=ゲノム

予約した座席=変異を導入したい遺伝子

座席まで案内してくれた会場係=sgRNA(single guide RNA)

座席に張ってあるテープ=DNA鎖

座席のテープを切るハサミ=Cas9(DNA鎖を切断するための人工ヌクレアーゼ)

となります。

詳しくは、動画(「ゲノム編集ツール、クリスパー/キャスナイン(CRISPR/Cas9)」)をご覧ください。

(2020年10月19日一部改訂)


形質

【略語・別称】遺伝形質
【英語表記】Character, Trait

【用語説明】生物のもつ性質や特徴のことを形質と呼びます。遺伝によって子孫に伝えられる形質を特に遺伝形質と呼びますが、単に形質と言えば遺伝形質のことを指すことも多々あります。たとえば、髪の毛が黒く目が茶色なのは形質であると同時に、子供に遺伝するので遺伝形質でもあります。

ゲノミックセレクション

【略語・別称】ゲノム育種
【英語表記】Genomic Selection

【用語説明】ある個体の全ゲノム配列を調べ、その配列からその個体が育種しようとしている目標の形質にどの程度合致しているかを推定し、その推定値に基づいて選抜をおこなう育種法です。あらかじめゲノムの中で目印となる配列(DNAマーカー)を決めておき、その配列を利用する点はマーカー育種と同じですが、ゲノミックセレクションではゲノム全体に多数の目印配列を決め、これらをDNAマーカーとして利用します。また、これら多数のDNAマーカーがそれぞれどのような形質に関係しているか分かっている必要はありません。
ゲノミックセレクションでは、まず、ある程度の個体数の集団(トレーニング集団と云います)のゲノム配列情報と形質情報から、ゲノム全体に存在する個々のDNAマーカーあるいは複数のマーカーの組み合わせが、目標とする形質にどの程度関係しているかを割り出しておきます。その結果を別の新しいゲノム配列に当てはめ、その新しいゲノムの持つ価値(ゲノム育種価)を計算します。実際に形質を調べなくても、DNAを抽出するだけで優良な個体かどうかがわかるため、育種のスピードが上がるのもマーカー育種と同じですが、多数の遺伝子が関わる複雑な遺伝形質(例えば、ウシが牛乳を作る能力など)を育種の目標とする場合も利用できる点が大きな特徴です。

ゲノム

【英語表記】Genome
【用語説明】「ゲノム」とはそれぞれの生物が「誕生して成長し、次世代に子孫を残す」ために必要な最低限の設計図1セットのことを指します。ここではゲノムについて、ヒトを例にして説明します。

ヒトの細胞の核には染色体が存在します。染色体は、塩基配列情報を担うDNA(デオキシリボ核酸)と、それをコンパクトに巻いて収めるタンパク質からできています。

ヒトの細胞一つの中には、母親由来の23本と父親由来の23本、合計46本の染色体が存在します。

女性の細胞は、両親から第一染色体~22番染色体を1本ずつ(44本)、X染色体を1本ずつ(2本)受けついでおり、染色体を合計46本持っています。男性の細胞では、同様に22番までの染色体44本と、母親からX染色体を、父親からY染色体を受けついでおり、合計46本となります。

ヒトゲノムは、22種類の染色体にX染色体とY染色体の合計24本からなります。

さて、最初に“「ゲノム」とはそれぞれの生物が「誕生して成長し、次世代に子孫を残す」ために必要な最低限の設計図1セットのことを指します。”と説明しました。

では、46本の染色体を持つヒトの場合、何が1セットになるのでしょうか?
46本のうち1から22番染色体は2本ずつあるので、それら1本ずつ(22種類)にX染色体とY染色体を加えて24種類=24本の染色体がヒトゲノム1セットに相当します。ヒトゲノムに含まれるDNAの塩基対は約30億塩基対になります。ヒトの細胞一つが持つ46本の染色体だと約60億塩基対にもなります。

(2022.8.18改訂)

ゲノムに関して図解入りで分かりやすく解説したいちから分かる!「ゲノムの正体を探る」もあわせてご覧ください。

ゲノム編集

【英語表記】Genome Editing
【用語説明】特定のDNA配列を切断できるようデザインされたDNA切断酵素(部位特異的人工ヌクレアーゼ)を用いて、ゲノム上の特定の場所を切断することにより突然変異を誘発する技術のことです。放射線などによるランダムな突然変異誘発とは異なり、部位を特定して突然変異を誘発することができます。取得したい形質に関わる遺伝子がわかっている場合には、ピンポイントで変異を導入して有望系統作物を得ることができるので、膨大な育種系統の中から有望系統を選抜しなければならないランダムな突然変異誘発技術に比べて、格段に新品種の開発が早まることから、世界中で注目が集まっている革新的な育種技術の一種です。

原核細胞

【英語表記】Prokaryote
【用語説明】原核細胞は、明確な輪郭をもつ核が観察できない細胞の総称で、細菌やラン藻といった下等生物の細胞が原核細胞にあたります。生物の細胞は、その内部構造から原核細胞と真核細胞の2種類に大きく分けられます。最も大きな違いは、核膜を備えた細胞核(真核)があるかないかです。原核細胞の方が簡単な作りで、真核細胞にはあっても原核細胞にはない内部構造が多くあります。原核細胞は植物のように細胞壁と細胞膜を持っていますが、核膜は持ちません。DNA自体も真核細胞では大きく、形状も多様であるのに比べ、原核細胞は1個の環状の分子を形成しているだけです。原核細胞にはミトコンドリアや小胞体、葉緑体、ゴルジ体などの器官もなく、細胞質の内部には膜構造が一切見られません。


交雑

【英語表記】Hybridization, Cross, Crossing
【用語説明】異なる品種、系統、生物種を交配し、両方の遺伝子を受け継ぐ個体を作ることをいいます。交雑で得られた個体を雑種(ハイブリッド)と呼びます。

抗生物質抵抗性マーカー

【英語表記】Antibiotics-resistant Marker
【用語説明】遺伝子組換えを行うに当たり、目的遺伝子が組み込まれたかを確認するために目印として用いられる、抗生物質に耐性をもつ遺伝子のことです。目的遺伝子と一緒に、カナマイシン、ハイグロマイシンなどの抗生物質に耐性をもつ遺伝子を組み込むと、組換えが成功した場合は、抗生物質を含んだ培地でカルスなどが育ってきますが、失敗した場合は生育してこないので簡単に組換え体を選ぶことができます。最近では抗生物質抵抗性遺伝子の利用は少なく除草剤耐性遺伝子の利用や他の選択方法の研究も進められています。

交配

【英語表記】Cross, Crossing, Mating
【用語説明】植物であれば花粉をめしべにつけて受粉させ種子を作らせること、動物であれば精子を卵子と受精させ、新しい個体を作らせることです。異なる品種、系統、生物種等を交配する場合は、交雑ともいいます。

交配育種

【略語・別称】交雑育種
【英語表記】Cross Breeding, Hybridization Breeding

【用語説明】品種改良の際に、性質の異なる個体あるいは、品種、系統を人工的に交配させて、両方の親の持つ良い性質(遺伝的形質)を受け継ぐ新しい品種を作り出すことを交配育種といいます。通常、一回の交配で新しい品種が完成することはなく、同じ個体の交配(自家交配)や、一方の親との掛け合わせ(戻し交配)を繰り返して、望みの形質を安定して持つ新しい品種・系統として完成させます。


細菌

【略語・別称】バクテリア
【英語表記】Bacteria

【用語説明】0.2~10μm(ミクロン)(1ミクロン=1000分の1ミリ)位で、ウイルスより大きく、固い細胞壁を持つ単細胞生物です。その種類は非常に多く確認されていますが、形態により、球菌、桿菌(かんきん)、らせん菌に分けられ、グラム染色法(細菌染色法)によってグラム陽性菌とグラム陰性菌に大別されます。細胞分裂により増殖し、その個体は、それぞれに成長・分裂の能力をもっています。無機物のみで発育する自力栄養菌、有機物を必要とする他力栄養菌があり、発酵・呼吸(嫌気性菌、好気性菌)によってエネルギーを得ます。
有用な細菌としては、発酵細菌としてアルコールを酢酸に変える酢酸菌、糖類を発酵させ乳酸を産出する乳酸菌(ヨーグルト、チーズ、バター、漬物等の製造に使われる)が知られています。このほか、寄生するものや病原性を有するものもあります。医療分野では抗生物質、ワクチンの製造などで利用され、免疫の機能や遺伝の仕組みなど、生物学研究にも幅広く用いられています。

細胞

【略語・別称】セル
【英語表記】Cell
【用語説明】わたしたちが住む地球上には、たくさんの生物が生活しています。人間、犬、鳥、魚、植物、アメーバーやゾウリムシなど、これらの生物をつくる基本単位が細胞です。つまり、これら生物は、形や大きさ、性質が違っても細胞からできています。また、生物をつくる細胞の数により、生物は2種類に分かれます。アメーバーやゾウリムシ、大腸菌などのように1つの細胞からできている生物を単細胞生物といい、植物や動物のように多くの細胞からできている生物を多細胞生物といいます。そして、細胞にも真核細胞、原核細胞の2種類があります。真核細胞は核のある細胞で人間、犬、鳥、魚、植物などの高等生物を構成します。原核細胞は、大腸菌などに代表される核がなくDNAがむき出しのまま存在している細胞です。

細胞核

【略語・別称】核
【英語表記】Cell Nucleus, Nucleus
【用語説明】細胞の内部にある小器官で球状の構造をしています。細胞核の中には遺伝情報であるDNAが格納されており、二重の膜(核膜)に囲まれ、核膜孔とよばれる多数の穴があります。そして、“発現、再生、老化、発ガン”などの生命現象が引き起こされる「場」になっています。細胞の種類は、細菌やラン藻類の原核細胞と、ヒト、犬、植物などの真核細胞の2種類ありますが、細胞核をもつのは真核細胞です。

雑種

【略語・別称】ハイブリッド
【英語表記】Hybrid

【用語説明】異なる品種、系統、生物種を交配し、両方の遺伝子を受け継ぐ個体を作る交雑によって得られた個体を雑種(ハイブリッド)と呼びます。

雑種強勢

【英語表記】Heterosis, Hybrid Vigor
【用語説明】異なる品種や系統の親同士を交配すると、その子ども(F1)は「大きくなる」、「ストレスに強くなる」、「繁殖しやすい」などの親より優れた性質を示すことがあり、この現象を雑種強勢といいます。異なる品種・系統であれば常に雑種強勢が現れるわけではなく、特定の組み合わせで雑種強勢が強く現れることが知られており、これを利用して優れた作物や家畜の品種(F1品種)が数多く作られています。

 


cDNA

【略語・別称】相補的DNA
【英語表記】Complementary DNA,complementary Deoxyribonucleic Acid
【用語説明】相補的DNAともいいます。生物の細胞に含まれているDNA(ゲノム)の中で遺伝子として働くのはごく一部(約5%)です。 遺伝子はタンパク質合成の際の設計図としてメッセンジャーRNA(mRNA)に写し取られます。つまり、mRNAの情報があれば人工的にタンパク質合成ができる可能性がありますが、このmRNAは非常に不安定で取扱いしにくい物質です。そのため、実験では、RNA配列に基づいて1本鎖DNAを合成することができる逆転写酵素と呼ばれる酵素をmRNAに加えることにより、mRNAと相補的な配列を持つ一本鎖DNAを作り出して使うのが一般的です。この人工的に作られたDNAをcomplementary (相補的な)の頭文字cをDNA に付けてcDNAとよびます。相補的と呼ばれるのは、mRNAとそのcDNAがDNAの二重らせん構造中のDNA同士のように、それぞれのヌクレオチドに含まれる塩基が、頭をつきあわせてアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が対をなしてぴったり貼り付けることができ、片方の配列を読めばその相手の配列が正確に読み取ることができることに由来します。

シーケンス

【英語表記】Sequence
【用語説明】アミノ酸配列やDNA塩基配列などの構成単位の配列のこと、あるいはその配列を明らかにする行為のことを指します。DNAの場合には、DNAを構成する単位であるアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類の塩基を持つヌクレオチドの並びをA, T, G, Cの4文字で表したものをDNAシーケンスと呼びます。また、DNA分子の端から一つずつ4種類の塩基を持つヌクレオチドの配列を決定することを「シーケンスする」といいます。また、タンパク質の場合には、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸の配列を「タンパク質のアミノ酸シーケンス」と呼びます。

次世代シーケンサー

【英語表記】Next Generation Sequencer
【用語説明】超高速シーケンサーとも呼ばれます。従来のDNA配列決定に用いられていたサンガー法とは原理的に異なる方法で、大量のDNAの塩基配列を解読する装置のことです。1台の装置で一度に5億から1000億塩基の解読を行なうことができます。DNAを合成することができるDNAポリメラーゼを使って塩基の取り込みを検出する方法や、短いDNA 断片(オリゴヌクレオチド)を配列を知りたい1本鎖DNAに貼り付け(ハイブリダイズ)させて解読する方法を使った装置が販売されています。シーケンサーの開発競争は日進月歩であり、今後も解読能力は飛躍的に増加していくと考えられます。

シトシン

【英語表記】Cytosine
【用語説明】DNAやRNAなどの構成成分です。DNAはリン酸、糖(D-デオキシリボース)、塩基からなる化合物(ヌクレオチド)がいくつもつながったものです。その塩基成分にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類が存在しますが、シトシンはそのうちの1つで、遺伝子設計図の元となる化学物質の1つです。DNAの二重らせんの中では必ずグアニン(G)と対合して塩基対を形作っています。

ジーンバンク

【英語表記】Gene Bank
【用語説明】動植物などの新品種や新しい食品を開発する場合、基礎となる生物や、その遺伝資源が必要となります。このような技術開発の生物遺伝資源を収集、保存、配布をする施設、あるいは業務を総称してジーンバンクと呼びます。(農業生物資源ジーンバンクを参照)

植物工場

【英語表記】Plant Factory
【用語説明】環境制御や自動化などの技術を利用した植物の効率生産システムです。温度、光、二酸化炭素、培養液(肥料)などの植物栽培の環境をコンピュータにより制御することで、天候や季節に左右されることなく、衛生的な生産ができます。また、播種や収穫などの自動化により周年生産システムを可能にし、安定生産や無農薬栽培ができるなどのメリットを持つことから、次世代の農業スタイルとして注目されています。

食品安全委員会

【英語表記】Food Safety Commission
【用語説明】2003年7月1日に、内閣府に設置された食品の安全性を評価する専門的な機関のことです。内外の食品安全に関する情報の収集や整理、中立公正な食品健康影響評価(リスク評価)を実施します。リスク管理機関(厚生労働省、農林水産省など)への勧告と実施状況を監視し、食品安全に関するリスクコミュニケーションの実施と緊急時の危機管理体制の整備を行ないます。また、関係省庁が食品の安全性の確保に関する施策を策定・変更する際には、食品安全委員会の意見を聴かなければならないことになっています。食品安全委員会のメンバーは、(1)毒性学、(2)微生物学、(3)有機化学(化学物質)、(4)公衆衛生学、(5)食品の生産・流通システム、(6)消費者意識、消費行動、(7)情報交流などの各専門家7名で構成されています。

真核細胞

【英語表記】Eucaryotic Cell
【用語説明】生物の細胞は、その内部構造から原核細胞と真核細胞の2種類に大きく分けられます。最も大きな違いは、核膜を備えた細胞核(真核)があるかないかです。真核細胞は、原核細胞より構造が複雑で、細胞内にミトコンドリアや小胞体、ゴルジ体などの器官があります。また、細胞核(核)と呼ばれる構造を持ち、細胞のそれ以外の部分からは膜(核膜)で区切られています。遺伝情報が書き込まれたゲノムのDNAも原核細胞では単一分子なのに比べ、真核細胞のものは、はるかに大きく、形も多様です。酵母や動植物は、真核細胞から成り立っています。

人工ヌクレアーゼ

【略語・別称】部位特異的ヌクレアーゼ・部位特異的核酸分解酵素
【英語表記】Artificial Nuclease(Site-directed Nuclease)
【用語説明】特定の塩基配列を認識してDNAを切断するように、人工的に設計された酵素のことです。ゲノム編集に用いられます。ZFN(Zinc-finger Nuclease) や、TALEN、CRISPR/Casシステムなどがあります。


制限酵素

【英語表記】Restriction Enzyme
【用語説明】2本鎖DNAの特定の配列を認識してDNA鎖を切断する酵素のことです。様々な生物で多くの制限酵素が発見されていますが、それぞれ認識・切断するDNA配列は異なり、その切断後の形状(切り口)も制限酵素によって異なってきます。分子生物学の実験では、制限酵素はDNA鎖を切断する「はさみ」として使われており、多様な制限酵素が市販され用途によって使い分けられています。一般的に、同じ制限酵素で切断した2本鎖DNAは、同じ切り口を持っていて、DNA鎖をくっつける「のり」の働きをする酵素(ライゲース)の働きを借りることにより、きれいに貼り合わせることができます。遺伝子組換え実験では、この制限酵素とライゲースが異なる生物由来のDNA鎖をくっつけるために利用されています。また、制限酵素が切断する配列を目印にDNA配列上の位置を示した地図を作ることができ、遺伝子の解析(ヒトゲノム解析、遺伝子診断など)に利用されています。

生物学的封じ込め

【英語表記】Biological Containment
【用語説明】特殊な培養条件下以外では生存しない宿主と、実験用でない他の生細胞への伝達性がなく、宿主依存性の高いベクターを組み合わせた宿主-ベクター系を用いることにより、組換え体の環境への伝播・拡散を防止すること。または生物学的安全性が極めて高いものと認められた宿主-ベクター系を用いることにより、組換え体の生物学的安全性を保つこと。生物学的封じ込めのレベルは、自然環境下での生存能力に応じて評価され、B1とB2の2つに分けられる。自然条件下では生存能力が低い宿主と、宿主依存性が高く、他の細胞、微生物に移行しにくいベクターの組合せで、自然条件下での生態学的挙動に基づいて安全性が高いと認められる宿主-ベクター系がB1レベルとされている。B2は、B1レベルの条件を満たし、かつ自然条件下での生存能力が特に低い宿主と宿主依存性が特に高いベクターを組み合わせた宿主-ベクター系をB2レベルと定めている。

生物農薬

【英語表記】Biological Pesticide
【用語説明】病害虫や雑草の防除に利用される微生物や天敵など、生物由来の農薬のことです。例えば、植物に害虫のアブラムシを食べるテントウムシのような益虫がよく知られています。生物農薬は、環境への負荷が軽減され、安全性も高いのですが、比較的高額で生産コストの上昇など、課題が多く実用化が遅れており、生産量は農薬全体の100分の1以下です。しかし、生物農薬の開発は進んでおり、中でも微生物農薬は、有効性の面からも研究が活発に行われています。代表的なものは、害虫防除に利用されているBt細菌(生菌)で、この菌を大量培養して、産生した殺虫効果のあるタンパク質を野菜の害虫、メイガなどの防除に使用します。日本では野菜、りんご、茶、街路樹の害虫防除用として販売されています。

セルフクローニング

【英語表記】Self-cloning
【用語説明】遺伝子組換え技術を用いて、ある生物に同じ生物種の別の個体の遺伝子を組み入れて、交配育種や自然界で起こっている突然変異で生まれてきた生物と基本的に区別できない生物を作り出すことをセルフクローニングといいます。例えば、ある作物品種の一つの遺伝子だけを同じ作物の別の品種の遺伝子に置き換えたい場合、戻し交配(交雑)で何度も交配を繰り返すことで、時間をかければ目的の品種を作りだすことができます。一方、遺伝子組換え技術を用いると、同じものを短時間に作り出すことができます。この場合、できあがった品種には、異種の生物の遺伝子は入っていないことから、自然界に存在する作物と区別することはできません。セルフクローニングやセルフクローニングで作り出された生物(ナチュラルオカレンス)は、法的には規制対象外とされています。

染色体

【英語表記】Chromosome
【用語説明】生物の体をつくりあげている細胞の核の内部にあり、遺伝情報の保存と発現を支配しています。染色体は、DNAとタンパク質が集まった棒状の構造体で、アルカリ性塩基の色素によく染まることから「染色体」と名付けられました。生物の体内で一定の周期で起こる細胞分裂の際に染色体が観察でき、そのとき以外は染色質(染色糸)とよばれる形がよくわからない構造をしています。染色体の数や形は生物の種類によって決まっています。たとえば人間の染色体は、人種にかかわらず46本で、チンパンジーは48本、犬は78本、アメリカザリガニは200本という具合に生物種によって決まっています。このように生物が下等であるか高等であるかは染色体の数とは関係がないようです。また、動物や雄雌異株の植物には常染色体の他に性別を決定している性染色体が存在します。


相同組換え

【英語表記】Homologous Recombination
【用語説明】塩基配列がよく似た(相同な)2つのDNA鎖の間で、その一部の塩基配列が交換されることを相同組換えと呼びます。DNAが切断された際に、その切断部位の近傍に相同な配列を持つDNAがあると、切断部箇所の前後で、配列がよく似たDNA鎖部分で相同組換えが起きて切断が修復されることがあります。この性質を利用して、相同なDNAの一部の塩基を人為的に変えておくと、任意の変異を導入することができ、ゲノム編集をするための一手法として利用されています。


TALEN

【英語表記】Transcription activator-like effector nuclease
【用語説明】ゲノムの特定の位置を狙って切断することができる人工のDNA切断酵素です。植物に感染した細菌が作るTALEと呼ばれるタンパク質が、植物の遺伝子の特定のDNA配列に結合する能力を応用したもので、どのようなDNA配列に結合するかを自由に決めることができます。TALENは2つが一組で働くタンパク質で、CRISPR/Cas9より調製に手間がかかりますが、切断効果は、CRISPR/Cas9と同等またはそれ以上の正確性の高いゲノム編集ツールです。

タンパク質

【英語表記】Protein
【用語説明】生物の体や細胞を構成している主な成分であり、細胞内の様々な化学反応を行う酵素もその実態はタンパク質です。タンパク質は、生きていく上で非常に重要な機能を果たします。例えば、人間であれば筋肉や内臓などの構成成分であり、病原菌などの外敵を攻撃する免疫などを担っているのもタンパク質です。このような生物活動に関わっているタンパク質は10万種類以上もあると言われています。その中には、個々の組織や機能ごとに共通して必要なタンパク質もあれば、組織ごとで異なった種類のタンパク質もあります。これは、タンパク質の種類によって働き方が違うからです。タンパク質は、20種類のアミノ酸が様々な順番でペプチド結合を介してひも状に長くつながったものですが、このアミノ酸の並び方でタンパク質の種類が違ってきます。それぞれのタンパク質の合成は、厳密にコントロールされており、生命活動の必要性に応じて、どのような組織で、どのような状況でどのようなタンパク質を作ればよいのかは、DNAに書き込まれた遺伝情報の中にプログラムされています。

 

タンパク質合成

【英語表記】Protein Synthesis
【用語説明】タンパク質を作るための設計図(アミノ酸の配列情報)は遺伝子と呼ばれ、DNA上に散在しています(ヒトの場合遺伝子として働くのは約5%)。遺伝子のDNA配列に基づいてタンパク質を作ることをタンパク質合成と呼びます。タンパク質は、20種類のアミノ酸がいろいろな順番でペプチド結合を介して一列に連なってできていますが、それぞれのアミノ酸は、連続する3文字1セットのDNA配列として遺伝子中に暗号化されています。タンパク質が合成される際には、まず、このDNA配列として暗号化された情報が、メッセンジャーRNA(mRNA)に写し取られます。この遺伝子の情報がコピーされmRNAになる過程を転写といいます。続いてmRNAは、細胞核外の細胞質へ移動し(真核細胞の場合)、リボソームという細胞小器官で、RNAの配列に基づいてトランスファーRNA(tRNA)が運んで来たアミノ酸が一つずつ順番にペプチド結合でつなぎ合わされてタンパク質が合成されます。この過程を翻訳といいます。このように真核生物では、タンパク質合成は、核内で行われる転写と、細胞質で行われる翻訳の2つの過程で成り立っています。一方、原核細胞には核はありませんが、タンパク質合成が転写と翻訳の段階で進行することは、真核細胞の場合と同じです。


チミン

【英語表記】Thymine
【用語説明】DNAやRNAなどの構成成分です。 DNAはリン酸、糖(D-デオキシリボース)、塩基からなる化合物(ヌクレオチド)がいくつもつながったものです。その塩基成分にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類が存在しますが、チミンはそのうちの1つで、遺伝子設計図の元となる化学物質の1つです。 DNAの二重らせんの中では必ずアデニン(A)と結合して塩基対を形作っています。


DNA

【英語表記】Deoxyribonucleic Acid
【用語説明】デオキシリボ核酸の英語名の略称でディーエヌエイと読みます。いわば生物の設計図ともいえるゲノムや遺伝子は、実はDNAでできており、DNAの分子構造の中に生物の形や性質を決める遺伝情報が書き込まれています。DNAは、細胞の核と呼ばれるところに多く含まれていて、デオキシリボースと呼ばれる糖と、塩基およびリン酸からなるヌクレオチドが連なってできた酸性物質なのでデオキシリボ核酸と呼ばれています。

それぞれのヌクレオチド分子は、糖とリン酸部分の構造は同じですが、塩基にはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類があり、DNAは4種類のヌクレオチドを1単位とした分子が鎖状に何個も連なった集合体です。細胞の中では、通常、DNA分子(一本鎖DNA)が2本、それぞれの鎖の塩基の部分で対合して二重らせん構造をとった二本鎖DNAとして存在しています。二重らせん構造の中の2本のDNA鎖の間は、AとT、GとCというように決まった組合わせで塩基と塩基が頭をつきあわせて対をなしています。これら4種類の塩基の並び方、すなわち塩基配列(=DNA配列)情報の中に遺伝情報が書き込まれており、たとえば、遺伝子のDNA配列が変わると、DNAを元に作られるタンパク質のアミノ酸配列も変わり、タンパク質の性質や働きも変わることとなります。

また、DNAはコピーされる分子です。生物は、一つの二本鎖DNA(親DNA)からまったく同じ二本鎖DNA(娘DNA)を2つ作ること(DNA複製)ができます。DNAが複製されるときには、二本鎖DNAがいったんほどけて、ほどけて一本鎖になったそれぞれのDNA鎖の露出した塩基にGとC、AとTがペアになるように新しいヌクレオチドが対合しつなぎ合わされることで新しい二本鎖DNAが2本作られることとなります。つまり、二本鎖DNAのそれぞれの一本鎖DNAを鋳型に新しいDNA鎖が作られることで、全く同じ塩基配列を持つ2本の二本鎖DNAができるわけです。細胞分裂によって一つの細胞が二つに増殖するとき、DNAは正確にコピーされ、二つの細胞は同じ塩基配列のDNAを持ちます。これによって、生物の持つ最も基本的な性質『自分で自分と同じものを作ることができる』が実現しています。DNAが遺伝情報を子孫に伝達する物質であることは、1944年にアメリカの研究者アベリーが明らかにしました。その後、1953年にイギリスでワトソンとクリックの二人の研究者が、DNAが二重らせんの立体構造を取っていることを明らかにしました。なお、ワトソンとクリックは、これによって1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

DNAシーケンス

【英語表記】DNA Sequence, Deoxyribonucleic Acid Sequence
【用語説明】DNAの塩基配列のことです。動詞としては、DNAの塩基配列を決定する行為を指します。また、DNAの構成成分アデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基配列を決定することを単に、シーケンスともいいます。最近では、塩基配列を自動的に決定する機械、DNAシーケンサーが使われ、特に次世代ゲノム解析で威力を発揮しています。

DNA複製

【英語表記】DNA Replication, Deoxyribonucleic Acid Replication
【用語説明】遺伝子本体である二本鎖DNA(親DNA)とまったく同じ二本鎖DNA(娘DNA)を2つ作ることをDNA複製といいます。真核生物では絶えず細胞分裂が行われ、新しい細胞と古い細胞が入れ替わっています。DNA複製の起こる時期は、この細胞が分裂する分裂期と次の分裂までの間で、DNA複製により細胞の内容が変化しないよう保たれています。DNA複製の際にはDNA(親DNA)を構成する二本の鎖の一部がほどけ、各々の一本鎖に新しく合成されたDNA鎖が結合し、DNA二本鎖(娘DNA)が完成します。DNAの二本鎖の間は、塩基と塩基が頭をつきあわせてアデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)というように決まった組になっているので、複製後の2本のDNAは親DNAと同じ塩基配列をもち、半保存的に複製されます。

DNAマーカー

【英語表記】DNA Marker, Deoxyribonucleic Acid Marker
【用語説明】生物がもつDNAの塩基配列上の特定の位置に存在する個体の違いを表す目印(マーカー)のことです。DNAはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基が連なってできていますが、この塩基の並びの目印となる特定の塩基配列をDNAマーカーといいます。染色体の中にある遺伝子の位置を決定するときや、植物の品種識別など(イネ、イチゴなど)の、あらゆる分野にDNAマーカーを利用することができます。また、DNAマーカーを用いて、ゲノム全体の地図を作成することも可能です。

デオキシリボ核酸

【略語・別称】DNA(ディー エヌ エイ)
【英語表記】Deoxyribonucleic Acid
【用語説明】英語表記の略語であるDNAを日本語で正式に物質として表すときにデオキシリボ核酸という言葉を使います。最近は、DNAという言葉が一般的に使われています。DNAは、細胞の核と呼ばれるところに多く含まれていて、デオキシリボースと呼ばれる糖と、塩基およびリン酸からなるヌクレオチドが連なってできた酸性物質なのでデオキシリボ核酸と呼ばれています。

転移RNA

【略語・別称】tRNA・運搬RNA
【英語表記】transfer RNA, Transfer Ribonucleic Acid
【用語説明】トランスファーRNA。一般に略称でtRNAと呼ばれています。遺伝情報からタンパク質が合成されるときに、合成に必要なアミノ酸をタンパク質合成の場となる小器官(リボソーム)に運ぶ役割を持っています。遺伝子DNAに書き込まれたタンパク質のアミノ酸配列情報を写し取ったmRNA(メッセンジャーRNA)の遺伝暗号(1つのアミノ酸を指定する連続した3つの塩基の配列=コドン)に従い、tRNAが運んできたアミノ酸がリボソームでいくつもつなぎ合わされ、タンパク質が作られます。

転移因子

【略語・別称】トランスポゾン
【英語表記】Transposable Element(Transposon)
【用語説明】ゲノム上を動く(転移する)ことのできるDNA断片のことです。ゲノムから切り出されてゲノム上の他の場所に挿入されるタイプと、ゲノム上に残ったままコピーがゲノム上の他の場所に挿入されるタイプがあります。元来は前者をトランスポゾンと呼ばれていましたが、両方含めてトランスポゾンと呼ぶ場合もあります。

電気穿孔法

【略語・別称】エレクトロポレーション法
【英語表記】Electroporation
【用語説明】エレクトロポレーション法ともいわれ、電気の刺激を利用して有用遺伝子を目的の植物細胞に直接入れる方法のことです。手順としては、目的の植物細胞の外側を囲む細胞壁を酵素で溶かし、細胞壁を取り除いた細胞(プロトプラスト)にします。このプロトプラストと有用遺伝子を溶液に入れて、直流の電気パルス(数1,000ボルト/cmの高電圧で数10μ秒のパルス)をかけるとプロトプラストの細胞膜に短時間、小さな穴があき外液といっしょに遺伝子が導入されます。このようにして有用遺伝子が、目的の植物のDNAに取り込まれ、組換え植物が完成します。また、交流電流をかけることにより細胞融合にも利用されています。


突然変異育種

【英語表記】Mutation Breeding
【用語説明】交配を用いた品種改良を行う際に、有用な性質を持つ適当な野生種がない場合に、人為的に遺伝子の突然変異を誘発して遺伝子上に突然変異をたくさん起こすことにより、有用な性質を持つ品種を人為的に作出する方法です。変異の誘発方法としては、ガンマ線や粒子線ビーム等を用いた放射線照射、DNAの複製ミスを誘発させる化学物質を用いた化学変異原処理、培養することにより変異が誘発されることを利用した組織培養などが用いられます。


ナチュラルオカレンス

【英語表記】Natural Occurrence
【用語説明】ナチュラルオカレンスとは、交雑などの自然現象や従来の交配(交雑)育種法で作り出すことができるものを、遺伝子組換え技術を用いて作り出した生物のことです。例えば、ある作物品種の一つの遺伝子だけを同じ作物の別の品種の遺伝子に置き換えたい場合、戻し交配(交雑)で何度も交配を繰り返すことで、時間をかければ目的の品種を作りだすことができます。一方で、遺伝子組換え技術を用いると、同じものを短時間で作り出すことができます。この場合、できあがった品種には、異種の生物の遺伝子は入っていないことから、自然界に存在する作物と区別することはできません。このように、遺伝子組換え技術を用いて、ある生物に同じ生物種の別の個体の遺伝子を組み入れて、交配育種や自然界で起こっている突然変異で生まれてきた生物と基本的に区別できない生物を作り出すことを、セルフクローニングといいます。つまり、ナチュラルオカレンスは、セルフクローニングで作り出された生物のことです。セルフクローニングやこの技術で作り出されたナチュラルオカレンスは、法的には規制対象外とされています。


ヌル分離個体

【英語表記】Null-segregant
【用語説明】外来遺伝子を一度導入した生物個体を交配したあとに得られる世代(後代)のうち、導入した外来遺伝子を持たない個体のことをヌル分離個体、あるいはヌルセグリガントと呼びます。ヌル(null)は「無」を意味します。ゲノム編集で作物の品種改良を行うために、外来遺伝子としてゲノム編集に必要なタンパク質やRNAの遺伝子を組み込んでゲノム編集が成功した個体では、もはや組み込んだ外来遺伝子は不要となります。遺伝子組換え個体同士または遺伝子組換え個体と非遺伝子組換え個体を交配してヌル分離個体を選抜することで、不要になった外来遺伝子を持たないゲノム編集が成功した作物を得ることができます。このように新しい育種技術の1つとして、ヌル分離個体の利用が考えられています。


農業生物資源ジーンバンク

【英語表記】NARO Gene-Bank
【用語説明】農林水産分野に関わる生物全般(種子、微生物など)の遺伝資源について収集・保存などを行い、内外の研究者に提供する事業のことです。従来、個々の研究機関で行われていた遺伝資源研究事業は、1985年に、全国的なネットワークを有する「農林水産省ジーンバンク事業」となりました。1986年には、農業生物資源研究所内に遺伝資源センターを設立し、1993年より植物・微生物・動物・DNAのセンターとした。ジーンバンク事業は各部門のセンターバンクと多数の試験研究機関にあるサブバンクとの連携で運営されており、2001年に独立行政法人農業生物資源研究所が母体となり、植物・動物・微生物の3部門が設けられ、現在(2017年~)は、農研機構が運営しています。バイオテクノロジーによる品種改良を効率的に行うため、国の内外から遺伝資源を探索・収集し、分類・同定を行うとともに特性評価、品質評価を実施し、これらを増殖・保存しています。このようにして保存されている遺伝資源は、大学や民間企業の研究者に広く提供し活用されています。


培養細胞

【英語表記】Cultured Cell
【用語説明】多細胞生物から分離し、生体外で維持・増殖されている細胞のことです。

倍数性

【英語表記】Polyploidy
【用語説明】同じ属や種の生物の間で、細胞が持つゲノムのセット数(顕微鏡で見える染色体の本数)が整数倍になっていることです。コムギ属は倍数性の有名な例で、染色体が14本のヒトツブコムギ、28本のフタツブコムギ、42本のパンコムギなどがあります。また、一つの生物でも時期によって倍数性が異なります。例えば種子植物は、めしべ・おしべを形成するときにゲノムを均等に分配し(倍数性が半分になり)、受粉してできた種子は元の倍数性に戻る、ということを繰り返しています。

倍数体

【英語表記】Polyploid
【用語説明①】生物が持っているゲノムのセット数に応じた、〇倍体という呼び方です。例えばイネでは、ゲノム1セットが染色体12本に相当し、体の細胞には両親から12本ずつ受け継いだ染色体24本(12×2)があります。つまりイネのめしべ・おしべは一倍体、体は二倍体となります。コムギのゲノムは染色体7本に相当します。ヒトツブコムギの体は染色体を14本(7×2)持つ二倍体、めしべ・おしべは一倍体になります。パンコムギの体は染色体を42本(7×6)持つ六倍体、めしべ・おしべは21本持つ三倍体になります。

【用語説明②】ゲノムが増える、倍数化という現象が起こった生物を二倍体と区別して、倍数体と呼ぶ場合もあります。倍数体は体が大きくなる傾向があり、品種改良に利用されています。植物では「同質倍数体」と「異質倍数体」に分けられます。

同質倍数体とは、同じ種類のゲノムが倍数化した生物のことです。例えばジャガイモには同質四倍体の品種があります。ゲノムはめしべ・おしべに均等に分配されます。

異質倍数体とは、種間雑種などが倍数化し、異なる種類のゲノムを複数持つようになった生物のことです。異質四倍体や異質六倍体のあるコムギが有名です(詳しく知りたい方は品種改良とバイオ入門「コムギの進化」をご覧ください)。異質のゲノムは独立して、めしべ・おしべに均等に分配されます(下図のフタツブコムギでは、めしべ・おしべともに二倍体で橙と青のゲノムを1セットずつ持ちます)。

農作物では他に、同質六倍体のキク・サツマイモ、異質八倍体のイチゴなどが知られています。また、三倍体など奇数の倍数体では、めしべ・おしべにゲノムを均等分配できないため、種ができません。バナナは勝手に、スイカは受粉さえすれば、可食部が成長するため、三倍体を用いた種なし果実が作られています。

倍数体は二倍体と比べて育種が難しいと言われます。例えば、次世代に受け継がれる染色体の組み合わせが多く、それぞれの形質の遺伝が複雑化するため、交配・選抜が大変になります。また、(ほぼ)同じ配列・役割の遺伝子を数多く持つため、少々の変異が起きても形質が変わりにくく、変異を活用した品種改良が難しいと言えます。

発現ベクター

【英語表記】Expression Vector
【用語説明】導入しようとする遺伝子が組み込まれたベクター(目的とする遺伝子を宿主に運搬するDNAのこと、DNAの運び屋)のこと。細胞内で特定の外来遺伝子を発現させようとする場合に用いられるベクターで、発現ベクターは、発現させようとするタンパク質の塩基配列のほか、転写の開始を指令する塩基配列や転写の終了を指令する塩基配列などの遺伝情報を含んでいます。遺伝子組換え技術では、発現ベクターを用いて目的とする遺伝子の形質発現を行わせることに利用します。


PCR

【略語・別称】ポリメラーゼ連鎖反応・複製連鎖反応
【英語表記】Polymerase Chain Reaction
【用語説明】ポリメラーゼ連鎖反応、複製連鎖反応ともいわれます。増やしたいDNAの特定部位を含むDNA断片とともに、その特定部分をはさむ2種類のDNA断片(プライマー)とDNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)を反応させることにより、その特定部位がコピーされたDNA断片が合成されます。この反応の繰り返しにより、DNA特定部位を数十万倍程度まで増幅させることができます。 また、DNA合成のプロセスには、時間が数分しかかからないことから、このPCR法の利用が急速に広まりました。PCR法は遺伝子配列の決定や遺伝子の定量など、遺伝子研究の基本技術として確立されています。


プライマー

【英語表記】Primer
【用語説明】DNAを酵素的に合成する際に使われる短い一本鎖DNA断片のことです。合成する際の下敷きとなる一本鎖DNAの配列に基づいて、二重らせんを構成する相補的なもう一本鎖を合成する際の合成の開始点となる配列に相補的に結合するように作られています。反応に伴ってプライマー配列を先頭にDNAが合成され、二重らせんが形作られていきます。プライマーは主にPCR法でDNAを増やすときに使われ、増やしたい部分の両端に結合する塩基配列を持ちます。

プラスミド

【英語表記】Plasmid
【用語説明】さまざまなDNA断片をクローニングする(入れ込む)ために制限酵素の認識・切断部位の配列を複数並べた人工的な配列(マルチクローニングサイト)や抗生物質を破壊する酵素の遺伝子を含むリング状のDNAのことです。大腸菌のような細菌の中で染色体とは別に存在する環状の二本鎖DNAで、細胞分裂や染色体DNAの合成とは無関係に増殖できます。組換えDNA実験において、プラスミドに他のDNA断片を組み込ませ、プラスミドの自立的増殖能を利用したベクター(目的とする遺伝子である異種DNAを宿主に運搬するDNA、DNAの運び屋)として用いられます。

プロテオーム

【英語表記】Proteome
【用語説明】Protein(タンパク質)と「全体」を意味する -ome から合成した造語で「タンパク質(Protein)の全体集団(Ome)」を意味します。具体的には、特定の細胞や組織が特定の条件下に置かれたときに、その細胞内あるいは組織内で発現している(発現する可能性をもつ)全タンパク質のことを指します。プロテオームの研究では、種々の生物において生育時期などに特異的に発現しているプロテオームを比較・解析することにより、生命現象を総合的に理解する上で重要であると考えられています。

プロモーター

【英語表記】Promoter
【用語説明】DNAからRNAを合成するいわゆる転写反応で、特にmRNAの合成の開始に関与するDNA上の特定領域の短い塩基配列をプロモーターと呼びます。ここにRNAポリメラーゼ(RNAを合成する酵素)が結合し、転写が開始されます。


ベクター

【英語表記】Vector
【用語説明】目的とする遺伝子を宿主細胞に導入し、発現させるための運搬用DNAのこと。宿主内に遺伝子を組み込むための「運び屋」で、ある生物から取り出した遺伝子を他の目的生物に移植する際に遺伝子を運ぶ役割をします。プラスミドから作ったベクターをプラスミドベクター、ウイルスから作られたベクターをウイルスベクターと呼びます。


マーカー育種

【英語表記】Marker-assisted Breeding

【用語説明】マーカー利用選抜を使って品種改良を行うことです(DNAマーカー育種ともいいます)。耐病性が高い、味が良い、収量が多いなど、品種改良に有利な性質にかかわる遺伝子の近くに存在する目印となるDNAマーカーを指標にして良いものを選び、新品種を作ります。交配して得られた子孫系統を生育させ、それぞれの性質をいちいち調べて選抜する必要がなく、小さな葉などから抽出したDNAを調べるだけで簡単に選抜できるので、交配育種に比べて新品種開発にかかる手間と時間を大幅に効率化できます。

マーカー利用選抜

【略語・別称】MAS
【英語表記】Marker Assisted Selection, Marker Aided Selection
【用語説明】交配親がもつ優良形質に関わる遺伝子を持つ子孫を選抜するために、目的とする遺伝子の近くに存在して目印となるDNAマーカーを指標として選抜する方法のことです。多くの形質は栽培条件などによって影響されますが、DNAマーカーは栽培環境などに影響されずに検出できます。さらに、複数の形質に関連する適切なDNAマーカーを設定できれば、同時に複数の遺伝子の有無を解析できます。


ミトコンドリア

【英語表記】Mitochondria
【用語説明】真核生物細胞の細胞質内に分布している棒状または粒状の細胞小器官で、二重の生体膜からできています。酸素とグルコースから二酸化炭素と水を作り、生命活動に必要なエネルギーを取り出す役目を担っています。また、独自のDNAを持ち、核のDNAとは別個に複製して子孫に遺伝情報を伝えることができます。こうした核外の細胞質に存在するミトコンドリアや葉緑体のような遺伝因子によっておこる遺伝のこと細胞質遺伝と呼びます。

ミトコンドリアゲノム

【英語表記】Mitochondrial Genome
【用語説明】細胞の中のミトコンドリアが持つゲノムのことです。細胞の核にあるゲノムとは異なり、母親から子供に遺伝します。生物の進化や地域間の違いなどを調べる際の、塩基配列の比較に用いられます。


メッセンジャーRNA

【略語・別称】mRNA・伝令RNA
【英語表記】messenger RNA, messenger Ribonucleic Acid
【用語説明】mRNAのことで、伝令RNAとも呼ばれます。mRNAは、DNA上でタンパク質のアミノ酸を決める部分が暗号化されている部分、すなわち遺伝子の情報(塩基配列)を細胞核内で写し取った一本鎖RNAで、細胞核の外にあるタンパク質合成にかかわるリボソームと呼ばれる小器官に運ばれます。タンパク質は、mRNAの配列に基づいてトランスファーRNAが運んできたアミノ酸がリボソームで鎖状につなぎ合わされて作られます。この過程は翻訳と呼ばれています。mRNAは、D-リボースを糖成分、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4種類のうち、いずれかを塩基成分とする核酸で、1本鎖のDNAの配列を下敷きにAにはUが、TにはAが、GにはCが、CにはGが塩基どうし対合しながら合成されることで、正確にDNAの配列情報を写し取ります。

メンデルの法則

【英語表記】Mendel’s Laws
【用語説明】この法則は、1865年オーストリアの研究者メンデル(G. J. Mendel: 1822-1884)が発見した遺伝現象の法則です。この法則は、「優性の法則」、「分離の法則」、「独立の法則」の3つからなります。各法則の概要は以下のとおりです。
⑴ 優性の法則
劣性遺伝子が優性遺伝子の影響で発現しないこと。このため、親の形質のうち、優性の形質のみが子に現れるという法則。
⑵ 分離の法則
⑴に従って生まれた第1世代同士を交配させることによって、第1世代では現れなかった劣性の形質が第2世代に現れること。
⑶ 独立の法則
⑴、⑵に従う遺伝子の他にも、形質に関わる遺伝子が存在する場合、遺伝子はそれぞれ独立し、子に受け継がれること。
この法則は、遺伝学の発展とともに、この法則を科学的に証明するなど、現在も、この法則に関する研究が報告されています。


雄性不稔

【英語表記】Male Sterility
【用語説明】正常な花粉を作ることのできない性質を雄性不稔(ゆうせいふねん)と呼びます。子房(めしべの一部で、やがて果実になる部分)は正常で、他の個体からの花粉が受粉すると種子を作ることができます。異なる品種と交雑する(掛け合わせて雑種を作る)際、おしべを取り除く面倒な作業が不要であることから、品種改良やハイブリッド品種の種子の生産に利用されることがあります。(2021年2月17日改訂)


葉緑体

【英語表記】Chloroplast
【用語説明】光合成を行う細胞内の組織で植物細胞に存在します。光と二酸化炭素と水から有機物と酸素を作る働きを持ち、固有の遺伝子を持っていて核の遺伝子とは別個に複製します。多くの植物の葉には、1細胞当たり数十個~百個以上の葉緑体が存在します。葉緑体は二重の膜に囲まれ、内部はストロマとチラコイドという物質でできています。植物はチラコイドに含まれるクロロフィルという色素のため、緑色に見えます。


リスク

【英語表記】Risk
【用語説明】「リスク」とはさまざまな分野で用いられる言葉ですが、食品分野におけるリスクとは、食品中に健康に対して危害を及ぼす物質等(危害要因=ハザード)が存在することで、健康への悪影響が起きる可能性とその程度(健康への悪影響が発生する確率と影響の程度)とされています。

リスクアセスメント

【略語・別称】リスク評価
【英語表記】Risk Assessment
【用語説明】「リスク評価」とは、さまざまな分野で用いられる言葉ですが、食品分野におけるリスク評価とは、食品中に含まれる健康に対して危害を及ぼす物質等(危害要因=ハザード)を摂取することによって、どのくらいの確率でどの程度の健康への悪影響が起きるかを科学的に評価することで、次のプロセスに基づいています。
⑴ 危害要因の特定
⑵ 暴露評価
⑶ リスク判定

リスクアナリシス

【略語・別称】リスク分析
【英語表記】Risk Analysis
【用語説明】「リスク分析」はさまざまな分野で用いられる言葉ですが、食品のリスク分析とは、食品中に含まれる健康に対して危害を及ぼす物質等(危害要因=ハザード)を摂取することによって人の健康に悪影響を及ぼす可能性がある場合に、その発生を防止し、またはそのリスクを最小限にするための枠組みのことをいいます。リスク分析はリスク管理、リスク評価およびリスクコミュニケーションの3つの要素から成り立っています。

リスクコミュニケーション

【英語表記】Risk Communication
【用語説明】「リスクコミュニケーション」はさまざまな分野で用いられる言葉ですが、食品分野におけるリスクコミュニケーションとは、リスク分析の全過程において、「関係者」の間で情報および意見を相互に交換することをいいます。

リスクマネジメント

【略語・別称】リスク管理
【英語表記】Risk Management
【用語説明】「リスク管理」はさまざまな分野で用いられる言葉ですが、食品分野におけるリスク管理とは、リスク評価の結果を踏まえて、すべての関係者と協議しながら、リスク低減のための政策・措置について技術的な実行可能性、費用対効果などを検討し、適切な政策・措置を決定、実施、検討、見直しを行うことを意味します。

リボ核酸

【略語・別称】RNA(アール エヌ エイ)
【英語表記】Ribonucleic Acid
【用語説明】英語表記の略語であるRNAを日本語で正式に物質として表すときにリボ核酸という言葉を使います。最近は、RNAという言葉が一般的に使われています。RNAは、細胞の核と呼ばれるところに多く含まれていて、リボースと呼ばれる糖と、塩基およびリン酸からなる物質が連なってできた酸性物質なのでリボ核酸と呼ばれています。

緑色蛍光タンパク質

【英語表記】Green Fluorescent Protein(GFP)
【用語説明】オワンクラゲから得られた蛍光タンパク質で、青色などの光を当てると緑色の蛍光を発します。遺伝子組換えの際に、目的とする遺伝子が入ったことを確認するための目印(マーカー遺伝子)などとして広く利用されています。2008年のノーベル化学賞は、GFPの発見と開発に関して下村脩博士らに贈られました。

リンケージドラッグ

英語表記】Linkage Drag

【用語説明】品種改良のため、交配を用いて望ましい形質をある品種に導入しようとする際に、その形質にかかわる目的の遺伝子の近くにある遺伝子が一緒に導入され、望ましくない形質が残ってしまう現象をリンケージドラッグといいます(注1)。野生種や突然変異体などに見つかった特徴のある望ましい遺伝形質を栽培作物や家畜に導入する方法の一つに、交配育種があります。交配育種では、目的の望ましい遺伝形質を持つ作物あるいは家畜の系統を栽培に適している優良な系統と交配しますが、この最初の交配で得られた子供の系統には、目的とする形質以外の望ましくない形質も一緒に導入されます。そのため、交配してできた子供の系統と最初の交配に使った優良系統との交配(戻し交配)を繰り返し、目的の遺伝形質は維持しながら、他の望ましくない性質を取り除き、全体として元の優良系統に近づけていきます。しかし、戻し交配を繰り返しても一部の望ましくない形質が残ってしまうことがあり、この現象をリンケージドラッグといいます。目的の形質の元となっている遺伝子と同じ染色体上のごく近くにある遺伝子ほどリンケージドラッグの原因になりやすくなります。ゲノム編集では、目的の形質の元となる遺伝子だけを正確に書き換えることができるので、リンケージドラッグは発生しません。

(注1:参照「マーカー育種」でイラストに出てくる「いもち病抵抗遺伝子」のすぐ隣にある「食味を低下させる遺伝子」がリンケージドラッグの一例になります)