ゲノム編集技術により天然毒素を減らしたジャガイモの栽培試験が可能になりました

2021年4月5日、理化学研究所は、ゲノム編集技術により食中毒の原因となる天然毒素を大幅に減らしたジャガイモ(バレイショ)について、文部科学省が示した手続きに従って、「ゲノム編集技術の利用により得られた生物の使用等に係る実験計画報告書」(以下「実験計画報告書」という)を提出し、受理されました。ゲノム編集作物・食品の監督官庁への情報提供・届出は、2020年12月に行われたGABA高蓄積トマトに続き国内で2例目ですが、今回の報告は産業利用ではなく研究利用のためのものであり、研究利用では国内初となります。

 

ジャガイモに含まれるソラニン・チャコニンなどの天然毒素「ステロイドグリコアルカロイド」(SGA:Steroidal GlycoAlkaloid)は、摂取すると食中毒の原因となる物質です。SGAはイモの緑色部分や芽に多く含まれ、加熱しても毒性が失われにくいことから、長い間ジャガイモの食用利用における問題となってきました。このSGAの量をゲノム編集で減らしたジャガイモを、大阪大学と理化学研究所の研究グループが開発し、圃場での栽培実験に向けた文部科学省への報告が行われました。

 

今回報告されたゲノム編集ジャガイモでは、SSR2 (Sterol Sidechain Reductase 2)と呼ばれる酵素が機能しないようになっています。SSR2はジャガイモなどナス科植物にだけにあり、植物の細胞膜などに必要なステロールの代謝経路から枝分かれして、SGAの合成を開始する働きを持っています。ゲノム編集ジャガイモでは、このSSR2を働かなくしたため、SGAの含有量が大きく減少しました。

 

今回のゲノム編集ジャガイモの文部科学省への報告は、研究目的の野外栽培実験を行うためのものです。食品や飼料としての利用に向けた厚生労働省や農林水産省への届出はまだ行われておらず、すぐに流通段階へと進むわけではありません。今回の報告により、このゲノム編集ジャガイモがカルタヘナ法の規制対象には該当しないことが確認されましたが、栽培実験を行える場所は栽培実験計画書に記載された圃場のみとなります。今後、このゲノム編集ジャガイモの生育特性を評価するため、茨城県つくば市にある農研機構の圃場(約2 アール)で、2021年4月下旬から2022年1月にかけて栽培実験が行われる予定です。

 

※2021.4.12 一部追記:農研機構における栽培実験に関する情報などを追加しました。

※2021.4.15 用語等を一部訂正いたしました。

【参考リンク】(外部リンク)

文部科学省 実験計画報告書の一覧

農研機構ホームページ
「令和3年度 ゲノム編集技術により得られたステロイドグリコアルカロイド低生産性バレイショ(ジャガイモ)の栽培実験について」
https://www.naro.go.jp/project/research_activities/laboratory/nias/139261.html

研究段階におけるゲノム編集生物の取扱要領
「研究段階におけるゲノム編集技術の利用により得られた生物の使用等に係る留意事項について」(文部科学省ホームページ)
https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n2189.pdf

 

【関連記事】(内部リンク)

ゲノム編集技術を利用した食品・生物に関する取扱いルール
 
GABA高蓄積トマトに関する記事

(国産ゲノム編集生物)