2025.9.26

農研機構では、植物からのDNA抽出実験を体験できるサイエンスカフェを開催し、これまで多くの方々にご参加いただいています。ここでは、参加者の皆様から寄せられた質問をもとに、研究者が実験やDNAに関する疑問にお答えしていきます!

質問と回答

DNAについて

  • 人間がほかの生物のDNAを食べても、体に害はありません私たちが食べたDNAは、消化酵素によって分解され、塩基配列の並びがばらばらになるため、DNAがもつ生物の設計図としての機能は失われます。したがって、私たちは日常的に野菜や肉などを通じて様々な生物のDNAを摂取していますが、それが人間の体内で別な生物の設計図として働くことはありません。

    参考リンク
    バイオキッズ第1章>生き物ってナニ?>1-7. 何を食べてもヒトはヒト
    https://bio-sta.jp/biokids/chapter1/section7/

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  • はい。人類が行ってきた品種改良は、すべて何らかの形でDNAの変化に関係しています。品種改良は、DNA(遺伝子)の変化によって農作物の形や性質が変化することを利用しています。
    主な方法には、①自然界で起きた突然変異の利用、②異なる品種をかけ合わせる交配育種、③放射線などによる突然変異育種、④他生物の遺伝子を導入する遺伝子組換え育種、⑤狙った遺伝子を精密に改変するゲノム編集技術があります。
    特にゲノム編集技術は、従来よりも短期間で目的の形質を持つ品種を開発することができる技術として期待されています。

    参考リンク
    品種改良とバイオ入門>さまざまな品種改良の方法
    https://bio-sta.jp/beginner/method/
    品種改良とバイオ入門>最新バイオテクノロジーを使った品種改良
    https://bio-sta.jp/beginner/biotechnology/
    品種改良って何だろう(動画)
    https://bio-sta.jp/movie/3464/
    ゲノム編集ツール、クリスパー/キャスナイン(CRISPR/Cas9)(動画)
    https://bio-sta.jp/movie/4483/

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  • 今のところ地球上のすべての生き物がDNAを持つと考えられています。

    なお、一部のウイルスにはDNAのかわりにRNA遺伝物質としているものがいます。しかし、ウイルスは自分の力だけで増えることができないので、ウイルスは生き物ではないと考えている人もいます。

    生物の定義にはさまざまなものがありますが、①外の世界と膜で区切られている、②体の中で物質を化学変化させる(代謝)、③自分の力で増える(子どもを残す)、の3つが最もよく使われています。ウイルスは、ほかの生き物の細胞を利用しないと増えることができないので、生物ではないと考えられています。 

    参考リンク

    BioKids 第1章 生き物ってナニ?

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  • 細胞の中のDNAは、タンパクに巻き付いて束ねられることで、らまりにくくなっていますまた、DNAは細胞の中で核膜という膜に包まれています。この核膜は、外からの刺激からDNAを守り、ちぎれるのを防いでいます。それでも、放射線が当たったりDNA複製が失敗したりすることで、DNAがちぎれてしまうことがあります。その時は、ちぎれたDNAをくっつけるタンパクが働いて、ちぎれたDNAを直します。さらに、DNAがねじれてしまった時に働くタンパク質もあります。このタンパク質は、ねじれた部分を一度切り離し、ねじれを戻してからくっつけ直すことができます。

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実験について

  • 実験につかう試薬の純度と器具の精度が違います。ここで紹介するDNA抽出実験では、食器用洗剤など身近な材料を使って、安全にDNAの存在を観察することができます。しかし、洗剤にはいろいろな成分が含まれているうえ、使用する器具の精度が低いため、抽出したDNAには不純物が多く含まれています。研究に使用する場合は、専用の試薬(SDSなどの界面活性剤やpHの緩衝液など)と器具(遠心分離機やマイクロピペットなど)を用いて、高純度のDNAを分離・回収します。それでもなおタンパク質やRNAなどの不純物が混在するため、これらを分解・除去する操作を加え、更にDNAの純度を高めたうえで研究に利用しています。

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  • ブロッコリーの以外の食品を使っても、同じ方法でDNAを取り出すことができます。ただし、取り出しやすいものと取り出しにくいものがあります。

    ある食品の中の細胞をひとつひとつ見ていくと、どの細胞にも同じ量のDNAが入っています。つまりDNAをたくさん取り出したいときは、細胞の数が多い部分を使うのがおすすめです。

    ブロッコリーの花芽は小さい細胞がたくさん集まっている部分なので、DNAを取り出しやすいのです。一方で、水分が多い果実や、油が多い種子からは、DNAをほとんど取り出せません

    野菜以外は、肉のレバーなどからもDNAを取り出せます。 動物の細胞からDNAを取り出すときは、植物のように強くすりつぶす必要はありません。動物の細胞には細胞壁がないからです。

    【目で見る用語集】動物細胞の構造 https://bio-sta.jp/movie/4108/

    【目で見る用語集】植物細胞の構造 https://bio-sta.jp/movie/3993/

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  • 中性洗剤に含まれる界面活性剤という成分が、細胞膜や核膜をバラバラに溶かすことで、DNAを取り出すことができます。

    すべての細胞は細胞膜という膜に包まれていて、DNAはその中でさらに核膜という膜に包まれています。また、ブロッコリーなど植物の細胞は、細胞膜の外側に細胞壁という固い壁を持っています。 

    したがって、DNAを取り出すときは、 細胞壁、細胞膜、核膜のすべてを壊さなければなりません。すりつぶす作業では、細胞壁を壊すことはできますが、細胞膜や核膜は完全に壊すことができません。そこで、中性洗剤(界面活性剤)を加えます。

    こうして膜から出てきたDNAですが、そのままでは見ることができません。ブロッコリーをすりつぶした液はほとんどが水で、DNAが溶けてしまうからです。ところが食塩を加えると、DNAは水に溶けにくい状態になります。そこにそっとアルコールを加えて、液の上にアルコールの層を作ると、DNAはアルコールの層の方へと移動します。水に溶けたDNAがアルコールの層に移動すると、水が抜けてDNAどうしが集まり、白いかたまりとして見えるようになります。 

    酸性洗剤やアルカリ性洗剤を使わないのは、この2つには界面活性剤が入っていなかったり、少なかったりするので、DNAを包む膜を溶かしにくいからです。また、アルカリ性にすると、DNAの構造が壊れてしまうこともあります。 

    参考リンク

    DNA抽出実験-DNA抽出の仕組み(動画)

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  • この実験で取り出したDNAを保存したいときは、まず、白いフワフワした部分だけを巻き取るか、スプーンなどですくって取り出してください。それを、エタノールを入れた別の容器に移し替えるか、乾燥させれば保存することができます。乾燥させると、DNAがくっついて取れなくなることがあるので注意してください。 

    しかし、研究などで使うDNAは、塩基配列が壊れないようにしなければならないので、この方法では不十分です。研究などでよく使われる方法では、まず遠心分離機という機械を使って液体の部分を取り除き、DNAだけにします。次にDNAを乾燥させてから、冷やして保存します。DNAは紫外線に当たったり激しくかき混ぜられたりすると壊れてしまうので、光の当たらないところに静かに置いておくことも重要です。また、ガラスの入れ物を使うとDNAがくっついてしまうので、プラスチックの入れ物を使います。 

    ※遠心分離機とは、何種類かのものが混ざった混合物を高速で回転させることで、遠心力によって種類別にわける機械です。 

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もっと実験したくなった人へ

  • ブロッコリーの完全なDNA配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankという公共のデータベースからダウンロードできます(無料)。このデータベースには、動物、植物、微生物などさまざまな生物のDNA配列も登録されています。

    NCBI GenBank でブロッコリーのDNA配列を調べる方法
    1. NCBI GenBankのウェブサイトにアクセス https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/
    2. 検索バー左側の「Genome」を選択。検索バーに「Brassica oleracea var. italica」(ブロッコリーの学名)を入力して検索
    3. 検索結果から、GCA_034640255.1 (※)の行を選択し、右側のactionから「Genome sequences (FASTA)」をDownload。
    4. テキストファイルを開けるソフトウエア(windowsメモ帳など)で開く。

    ※現在公開されているブロッコリーのDNAの塩基配列は、557,942,728塩基(約5.8億塩基)もあります。

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  • なんの生物のDNA配列なのかを調べるならば、BLASTを使うのがお勧めです。BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)は、手元にあるDNA配列をデータベースと照合して、似ているDNA配列を探すツールです。

    1.  NCBI BLASTにアクセス (無料)
    https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi
    2.「nucleotide BLAST」のボタンを選択
    Enter Query Sequence の一番大きいボックスに調べたいDNA配列を貼り付ける (GACTGCAAGCAGATGTAACCGAATCGTTTTATCAACGAGTTTGCTCAGCGTAATGGCATCCなど)
    3. Choose Search SetのDatabaseは「nr/nt(nucleotide collection)」を選択
    4.  BLASTボタンを押す
    5. 結果画面のScientific Nameが、入力したDNAに対応する生物(学名で表示)。上位の結果ほど似ている。

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  • DNAの塩基配列をきめる実験(DNAシーケンシング)は、多くの精密な実験器具をつかう職人技です。今はそれらの操作を自動化した機器もありますが、高額(数百~数千万円)なため、自宅で行うことは困難です。

    たとえ自宅で実験できなくても、様々なDNAシーケンシング技術の原理を学ぶことは非常に重要です。現在では、古典的なサンガー法から、大量の配列を高速に解析できる次世代シーケンシング(NGS)まで、さまざまな方法が開発されており、それぞれに特徴と用途があります。

    なお、近年の研究現場では、DNAシーケンシングは自動化された機器で行われることが一般的であり、またそれらを専門業者に委託するケースも増えています。

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  • ゲノム編集実験を自宅で実施すると法律違反になる可能性があります。一般に、ゲノム編集実験は遺伝子組換え実験を伴います。遺伝子組換え実験は、日本では「カルタヘナ法」により、遺伝子組換え生物の取り扱いや外部環境への放出が厳しく規制されています。海外で遺伝子組み換え実験を自宅で実施した事例がインターネット等で紹介されていますが、日本で実施すると法律違反になる可能性があります。倫理的にも、生命の改変には社会的な合意や安全性の検証が不可欠であり、個人の判断で行うことは望ましくありません。さらに、ゲノム編集実験には高度な設備や危険物を含む試薬が必要であり、家庭環境では安全性を確保することが困難です。したがってゲノム編集を本格的に学びたい場合は、大学や研究機関などで、専門的な知識と技術を体系的に習得し、適切な環境と指導のもとで実験を行ってください。

    ゲノム編集の取り扱いルール>国内での取り扱いルール
    https://bio-sta.jp/regulation-ip/domestic/

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  • 1本1本のDNAはとても細いので、普通の光で見る顕微鏡で見ることはできません。DNAを1本ずつ見るには、原子間力顕微鏡などの、特別な顕微鏡が必要です。この特別な顕微鏡を使うと、DNAの形がらせん状であることがわかります。また、DNAには特定の色の光を吸収する物質が含まれていないので、色がついて見えることはありません。取り出したDNAが白く見えるのは、すべての光を反射しているからです。 

    ※原子間力顕微鏡とは、原子と原子の間にはたらく非常に小さい力(原子間力)を検出して、ナノメートル(100万分の1ミリメートル)単位のものを見る顕微鏡です。 

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  • 教科書などでよく見かけるX字のような形(図の矢印)は、DNAタンパク質に巻き付いて、さらに折りたたまれ束ねられることで作られます。

    DNAがX字型に折りたたまれるのは、生きている細胞が分裂しているときだけです。そのため、いったん取り出したDNAをX字型にすることは、残念ながらできません。X字型のDNAを観察したい場合は、タマネギなどの種を発芽させ、伸びてきた根の先を専用の薬品で染めて顕微鏡で観察してください。(この実験では危ない薬品を使うので、やってみたい人は、学校の先生などやったことのある大人に相談しましょう)。

     

    参考リンク

    体細胞分裂~動物編~(動画)

    体細胞分裂~植物編~(動画)

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  • 取り出したDNA塩基の並び方を調べることで、そのDNAを持っていた生き物の特徴を知ることができます。これ、病気の診断や品種改良など様々な分野で活用されています例えば患者さんのだ液や鼻水から取り出したDNA調べる、どんな病原菌が病気を引き起こしているのかがわかります。また患者さんがどんな病気になりやすいかを調べて病気の治療や予防に役立てることできます。そのほか、どの植物が病気に強いかや、おいしい実をつけるかなどの情報を集めることで、農作物の品種改良にも活用されています。

    また最近では、水や土などに含まれるDNAを調べることで、生き物を直接見たりつかまえたりしなくても、その場所にいる生き物について知ることができるようになりました。

    参考リンク

    DNA抽出実験-DNAとは?(動画)

    最新バイオテクノロジーを使った品種改良

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関連リンク

編集担当者

企画・解説:水野 浩志、赤羽 幾子(農研機構新技術対策課)
解説・イラスト:笠井 誠(農研機構新技術対策課)、石田 早侑梨(京都大院農学研究科修士課程)

 

(最終更新日:2025年9月26日)