【2020年2月26日】
2月25日、米ブロード研究所※1が日本で出願していた特許2件について、知的財産高裁での判決が出されました。この2件の特許出願は、特許庁から拒絶の審決を受け、ブロード研が知財高裁に出訴していたものです。
2件の特許出願のうち1件(特開2016-165307)については、「ドナーDNAを用いる点」が特徴でしたが、この点については先行して成立しているシグマアルドリッチの特許出願※2と同一発明と認定され、「拒絶」が維持されました。
米ブロード研究所の発明については、CRISPR/Cas9を真核細胞に適用するだけでは特許性がないこと、さらに、ドナーDNA(修復鋳型)を組み合わせても特許性がないことが明確になった点に大きな意味があります。
なお、もう1件(特開2016-171817)については、ガイドRNA中の「tracrRNA部分が30ヌクレオチド以上である点」が特徴です。今回の判決ではこの点の特許性が認められ、特許庁の拒絶審決が取り消されました。
しかし、このまま特許が成立した場合でも、ガイドRNA中の「tracrRNA部分が30ヌクレオチド以上である点」で特定されているため、この部分を29ヌクレオチド以下にすることで回避可能と考えられます。
ブロード研はこれまでに日本で7つの関連特許を成立させていますが、いずれも回避可能な追加の技術的特徴で限定されています。
つまり、この判決が確定した場合、ブロード研は日本において、CRISPR/Cas9の真核生物での使用全体を支配することができなくなると考えられます。
判決内容の詳細については、知財高裁HPにてご確認ください。
※1 ブロード研究所:
米ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同運営する研究所。CRISPR/Cas9に関する3つの有力な基本特許権者の1つで、米国などではCRISPR/Cas9の真核生物での利用を幅広くカバーする特許を保有している。もう1つの有力な基本特許権者である米カリフォルニア大と特許係争が継続中。
※2 シグマアルドリッチの特許出願:国際公開2014/089290号(特表2016-502840号)。
なお、成立した日本特許(特許第6620018号)は、2つのRNA誘導型ニッカーゼシステム(nCas9)を使用する点が特徴で、ドナーDNAはそれとの組合せで特定されています。