基礎・基盤研究技術の開発

もう偶然には頼らない!目的箇所を希望の配列に書き換える精密ゲノム編集技術

要約

CRISPR-Cas9システムを改変し、DNAを合成する酵素の機能を加えた新しいシステムを構築することで、ゲノムの特定の位置にあるDNA配列を思い通りのDNA配列に書き換える技術が開発されました。「プライム編集」と名付けられたこの技術は、これまで利用されていた相同組換え法や塩基編集に加えて、正確なゲノム編集のための新たな選択肢となることが期待されます(図1)。

図1. ゲノム編集酵素のバリエーション

研究者が研究論文を分かりやすく解説
ゲノム編集を利用した新しい品種の開発や関連技術について、幅広い方々にご理解いただくため、最近発表された研究論文を研究者が分かりやすく解説します。

2020.7.3

背景

2012年のCRISPR-Cas9の登場以降、ゲノム編集技術を作物の品種改良に利用する研究が急速に進み、海外ではすでにゲノム編集作物の食品としての利用も始まっています。現在多くの作物で適用されているのは目的の遺伝子を狙って切断し、修復の際のミス(変異)によって、その遺伝子の機能を停止あるいは減らすことで目的の形質を得る技術です(図2右上、および当サイト「ゲノム編集について」の項目の「「ゲノム編集技術の分類(SDN-1~SDN-3)について教えてください。」を参照)。一方で、遺伝子の特定の部位に特定の変異が加わることで、重要な形質が得られる例も知られています。たとえば、野生のイネのqSH1という遺伝子のある1塩基がTからGに変わると、脱粒性(穂から種子が落ちる性質)を失い、栽培に適した形質を獲得することがわかっています。また、植物の持っているアセト乳酸合成酵素(ALS)遺伝子の一部の塩基が別の塩基に置き換わることで、特定の除草剤に対する耐性を獲得することも知られています。このように既に知られている遺伝情報を品種改良に利用するためには、目的の遺伝子の狙った部分を切って、たまたま思い通りの変異が入るのをひたすら待つのではなく、そのサイトを正確に書き換える技術の開発が必要です。1塩基から数十塩基程度の比較的短い配列を書き換える正確なゲノム編集として広く使われている方法には、次に紹介する相同組換え法と塩基編集があります。

相同組換え修復を利用する方法

相同組換えとは、2つのDNA鎖の塩基配列がよく似た(相同な)部位で互いのDNA配列の交換(組換え)が起こる現象のことです。生物は、一部切れたり脱落してしまったりしたDNAの損傷部位を修復するために相同組換え修復をすることが知られています。この、もともと生物が持つ相同組換え修復能を利用して、人為的に加えたDNA(あるいはRNA)断片(鋳型断片とも呼ばれます)の配列をゲノム上のDNA配列に写し取らせ、思ったようにDNA配列を書き換える方法で、ここで述べる1~数塩基の書き換えだけでなく、遺伝子全体の挿入・除去などにも利用されています(図2下)。

動物の場合、生物種によって状況は異なりますが、受精卵や培養細胞にCRISPR-Cas9システムなどのゲノム編集ツールとともに一本鎖DNAの鋳型断片を注入するか取り込ませることで、比較的効率よく正確なゲノム編集が可能です。モデル動物であるショウジョウバエやマウス、ゼブラフィッシュを始め、カイコ、ブタ、ヤギといった農業に関わりの深い動物でも成功例が報告されています。一方、植物では適切な時期・部位の細胞に鋳型断片を効率よく送り込むことが難しく、相同組換え修復能を利用した正確なゲノム編集は、様々な植物種に適用できる技術としてはいまだ確立されていません。細胞壁を取り除いた植物細胞(プロトプラスト)やカルスと呼ばれる培養が可能な細胞塊を利用すれば、ゲノム編集ツールとともに外部から鋳型を送り込み相同組換えを起こすことは比較的容易です。しかし、これらの細胞から植物体への再生法が確立されていない植物もあり、この方法が利用できる植物はまだ限られています。

一般に、相同組換えを利用するゲノム編集では、鋳型断片を利用しないで修復される場合も多いため、DNA配列が変化した多数の個体(変異体)の中から狙った配列(鋳型断片の配列)を持つ変異体だけを選び取る必要があります。

図2. CRISPR-Cas9による塩基配列の書き換え

修復ミスによってランダムな変異を起こさせる方法(右上)と鋳型DNAを使って思い通りの配列に修復させる相同組換え法(下)

 

塩基編集

DNAを切断することなくゲノム上の狙った1塩基だけを別の塩基に変換する塩基編集技術の開発も進んでいます(図3)。遺伝子の発現を調節する領域の特定の1塩基を別の塩基に変換することで、その遺伝子の働きを変えられる場合があり、また、タンパク質の構造を決めている領域の塩基を変換することで、タンパク質の中のアミノ酸を意図的に別のアミノ酸に置き換えることができます。今のところ、塩基編集はC→T、G→A、A→G、T→Cの変換が可能で、更に他の編集方法についても研究が進められています。相同組換え修復に必要となる鋳型断片を必要としないので、CRISPR-Cas9システムが働く多くの動物、植物で利用可能です。

図3 塩基編集による塩基の変換

ゲノム編集に関する研究は日々進展していますが、編集の自由度の面ではまだ限界があり、より正確で効率のよいゲノム編集を実現するための研究が続けられています。そうした研究の一例として、米国ブロード研究所及びハーバード大学の研究グループが開発したプライム編集について概要を紹介します。

解説

通常のCRISPR-Cas9システムでは、DNA二本鎖を切断するCas9ヌクレアーゼとそれをゲノム上の特定の位置に導くガイドRNAを利用しますが、プライム編集では、それぞれに新たな工夫を加えました。Cas9ヌクレアーゼの代わりに、Cas9ニッカーゼ(DNAの片方の鎖だけを切断するCas9)を用い、これにRNAの配列をもとにして(鋳型として)その配列情報を持つDNA鎖を合成することができる逆転写酵素(reverse transcriptase; RT)と呼ばれる酵素を結合させ、二つの働きを持たせた酵素を作りました。また、ガイドRNAが持つゲノム上の特定の位置に導く働きに加え、逆転写酵素、すなわちRTがRNAの配列を写し取るための鋳型の機能を追加したpegRNA(prime editing guide RNA)を開発しました(図4)。

図4 プライム編集で使用する三つのツール

このシステムでは、まずpegRNAがゲノム編集を起こす場所に貼りつき、DNAを開いた状態にします。この場所でCas9ニッカーゼが反対側の鎖に切れ目(ニック)を入れます(図5 STEP 1)。次にpegRNAの反対側の端が切れ目の入ったDNAに貼りつき、続いてRT酵素の働きによって、pegRNAの配列を鋳型として、その配列を写し取った新たなDNA鎖が作られます。この部分はpegRNAの配列から写し取られますので、pegRNAに元のDNA配列とは異なる配列を入れておけば、どのような書き換えも可能です(図5 STEP 2)。新しい配列が導入されるとDNAが完全な二本鎖にはならず一部が飛びだした状態になります。この飛び出た部分は細胞が持つDNA分解酵素で優先的に分解され、新しい配列を組み込んだ二本鎖が残ることとなり、DNAの書き換えが完了します(図5 STEP 3)。

研究グループはこれら新しいゲノム編集ツールにより、ゲノムの狙った位置で思い通りの配列への書き換えが可能であることを確認しました。また、更に編集効率を向上させるための工夫を加えてツールの最適化を行っています。プライムエディターと名付けられたこのツールを用いることで、4種類の塩基を他のどの塩基にも置き換えることができ、1-44塩基の挿入、1-80塩基の欠失、また、これら置換・挿入・欠失を組み合わせたDNAの書き換えが可能であることを確認しました。思い通りの配列に書き換えられる効率はこれまでの相同組換え法と同程度であるものの、望まない配列に書き換えられた副生成物の割合は格段に少ないと報告しています。

 

図5 プライム編集による正確なゲノム編集

このプライム編集の利用目的として研究グループが狙っているのは遺伝病の治療です。ヒトの疾患に関わる遺伝子変異を適切に修正し、遺伝病を治療するためには、このように正確で副生成物の少ない方法の開発が求められているからです。プライム編集はまだ極めて新しい技術であるため、植物の品種改良に適用するためには細胞や生物の種類に応じた酵素やpegRNAの最適化が必要で、これらのツールを編集したい細胞・組織へどうやって送り込むのかといった課題もありますが、将来の発展が期待される技術です*1。

 

この記事の元となった論文

Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA
(訳)DNA二本鎖切断もドナーDNAも使わない検索・置換ゲノム編集
著者名:Andrew V. Anzalone et al.
Nature 576, 149 (2019) doi: 10.1038/s41586-019-1711-4

より詳しく知りたい方のために

*1 中国のグループがイネにプライム編集を試みた論文が2020年4月8日に公開されました。それによると、思い通りの配列に編集できた効率は0-31%と遺伝子の部位によって大きく異なりましたが、プライム編集はイネのゲノム編集においても自由度の高い利用価値のあるツールであると報告しています。

  • 企画/解説担当者:髙須 陽子 ・ 大島 正弘(農研機構)
  • 編集協力者:津田 麻衣 ・ 髙野 誠(筑波大学)
  • イラスト担当者:笠井 誠(農研機構)