育種材料と品種の開発

ゲノム編集で作る多収のモチモチ食感トウモロコシ ワキシーコーン

要約

種子にワックスを塗ったようなつやがあり独特のモチモチした食感をもつワキシーコーンは、そのまま食用にされるほか、精製したデンプンは食品産業等で利用されています。ワキシーコーンの栽培品種は、交配による育種法を用い時間と労力をかけて開発されてきましたが、通常のトウモロコシと比べて収量が低いという欠点がありました。アメリカの大手種子会社、コルテバ社の研究グループは、通常のトウモロコシ品種のデンプン合成にかかわる遺伝子をゲノム編集で改変し、モチモチした食感を持つ新しいワキシーコーンの品種を作り出しました。全米25箇所の圃場で栽培して収量を評価したところ、ゲノム編集で作出したワキシーコーン品種は、従来の交配育種で作出した品種より1haあたり平均350kg多収になることがわかりました。

研究者が研究論文を分かりやすく解説
ゲノム編集を利用した新しい品種の開発や関連技術について、幅広い方々にご理解いただくため、最近発表された研究論文を研究者が分かりやすく解説します。

2020.10.7

背景

モチモチ食感の元になるアミロペクチンがほぼ100%

ワキシーコーンとは、半透明でワックスで塗ったようなつやのある種子(穀粒)をつけるトウモロコシです。加熱したときのモチモチとした食感が特徴で、食用以外に、増粘剤や安定剤、接着剤の原料としても利用されています。

最も古いワキシーコーンの記録は、1908年に遡ります。当時上海に滞在していた宣教師から、「変わった種類のトウモロコシ」の種子が米国農務省へ送られてきました。それを栽培したところ、それまで米国で栽培されていたトウモロコシにはない特徴があることが分かり、その観察論文がワキシーコーンの最初の報告になりました*1。通常のトウモロコシデンプン(コーンスターチ)は、ブドウ糖がほぼ一直線につながったアミロース(約25%)とアミロースより分子量が大きくて枝分かれの多いアミロペクチン(約75%)から成ります。それに対し、ワキシーコーンのデンプンは、アミロペクチンがほぼ100%を占めています(図1)。このアミロペクチンがほぼ100%を占めるデンプンを作る性質をワキシー形質といいます。アミロペクチンは水と一緒に加熱すると、強い粘りを示す性質があり、これがワキシーコーンの独特のモチモチした食感の原因となっています。もち米がうるち米に比べて粘りが強いのもアミロペクチン含量が高いためで、もち米と似た食感をもつワキシーコーンは、別名モチトウモロコシとも呼ばれています。

遺伝子の変異がモチモチ食感の決め手

ワキシーコーンには多数の品種(実験や試験段階では系統と呼びます)がありますが、すべてWxと名付けられた遺伝子に変異があることが知られています。Wx遺伝子はアミロースの合成に必要な酵素を作る遺伝子で、この遺伝子に変異が入り、その働きを失うとトウモロコシはワキシー形質を示し、アミロースが合成できずアミロペクチンのみからなるデンプンを作るワキシーコーンになります。同じ遺伝子を2つずつ持つ二倍体のトウモロコシでは、2個あるWx遺伝子の両方が働きを失って初めてワキシー形質が現れます。たとえば、通常のトウモロコシ品種の花粉が飛んできてワキシーコーンのめしべに受粉すると、アミロースを含む通常の種子ができてしまいます。そのため、ワキシーコーンは、ワキシー形質が失われないように、通常のトウモロコシの花粉が飛んでこない隔離した圃場で栽培されています。これまで、商業栽培用のワキシーコーンは、変異したWx遺伝子を持つワキシーコーンと、収量が高いとか病気に強いというような優良な形質を安定して持つ通常トウモロコシ系統*2を交配し、通常系統のWx遺伝子をワキシーコーンの変異があるWx遺伝子に置き換えることによって作出されてきました(図2左)。しかし、この方法でワキシー形質を持つ安定な優良系統を得るには6回から7回も元の優良系統と交配(戻し交配)を繰り返す必要があるため、時間がかかります。また、この方法で作出したワキシーコーンは、通常のトウモロコシに比べて5%程度収量が低下しました。

今回紹介するのは、優良な特性を持つ通常トウモロコシ系統のWx遺伝子にゲノム編集で変異を入れることによって直接ワキシーコーンを作出することに成功した論文です。すでに多数の品種があるワキシーコーンを新たにゲノム編集で作り出す意義や、これまでのワキシーコーンとの違いなどを解説します。

 

解説

コルテバ社が、ゲノム編集でWx遺伝子の配列を欠失した変異体の作出に成功

コルテバ社は、カリフォルニア大学が持っているCRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集技術の特許の農業分野での独占実施権を獲得しているダウ・デュポンの農業部門が独立して2019年6月にスタートした会社です。農薬、種子、デジタル分野における技術革新を進めており、世界140か国に展開しています。コルテバ社の研究グループは、今年(2020年)、商業品種として流通している通常のトウモロコシ品種*3を作る際の親として使われる優良系統のトウモロコシにCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を施し、Wx遺伝子の大部分の配列を失った変異体を作出することに成功したという論文を発表しました。

研究グループは、Wx遺伝子の両端を切断する機能を持ったゲノム編集ツール(CRISPR/Cas9)等の遺伝子をパーティクルガン法で受粉後の未成熟な胚の細胞に打ち込んで、その胚から育った植物体の中からWx遺伝子の大部分の配列が失われた変異体を選び出しました。得られた変異体を元の系統と戻し交配し、後代の植物体の中から、導入した遺伝子を持たないヌル分離個体を選び出して、ゲノム編集ワキシー系統としました(図2右)。今回ゲノム編集に用いた12のすべての優良系統でワキシー系統が得られました。また、そのうち1つの系統の48個体について、オフターゲット変異が生じる可能性がある15箇所の配列を調べましたが、いずれにも変異はありませんでした。

このようにして作出されたゲノム編集ワキシー系統について、まず種子のワキシー形質を調べました。ゲノム編集ワキシー系統と、従来の交配による方法で作出したワキシー系統(交配育種ワキシー系統)について種子デンプンの組成を分析したところ、両方ともほぼ100%がアミロペクチンでした。また、2種類のゲノム編集ワキシー系統を交配して得られたハイブリッド品種でも、アミロペクチンの含量はほぼ100%でした。すなわち、ゲノム編集によってWx遺伝子の機能をなくしたワキシーコーンは、交配育種で得られたワキシーコーンと同じアミロペクチン含量を再現できることが確認されました。

従来の交配育種より多収なゲノム編集ワキシーハイブリッド

次に、ゲノム編集ワキシーハイブリッドと交配育種ワキシーハイブリッドの収量を比較しました。交配育種ワキシーハイブリッド7種類とそれぞれの元となった優良系統をワキシーにして作られたゲノム編集ワキシーハイブリッド7種類を全米25か所の圃場で栽培して収量を比較したところ、全体として、ゲノム編集ワキシーハイブリッドの方が交配育種ワキシーハイブリッドに比べ、1haあたり平均350kg多収であるという結果が得られました。研究グループは、交配育種ワキシーハイブリッドの収量がゲノム編集ワキシーハイブリッドの収量に比べて低いのは、いわゆるリンケージドラッグの影響と考えています。交配育種では、Wx遺伝子の変異を優良な系統に移すための最初の交配の際に、ワキシーコーンが持つ劣った形質も同時に移ってしまいます。これを取り除くために戻し交配を繰り返しますが、完全には取り除くことができません。この現象をリンケージドラッグと呼び、交配育種の大きな欠点となっています。つまり、交配育種ワキシー系統では、交配によって導入された収量低下をもたらす未知の因子を戻し交配で取り除くことができなかったと考えられます。それに対してゲノム編集では、優良系統を他の系統と交配する必要がないため、劣った形質が入ってしまうこともなく、戻し交配を繰り返さなくても優良な形質をそのまま受け継ぐワキシー系統が得られます。その結果としてハイブリッドの収量が交配育種ワキシー系統を上回ったと研究グループは推測しています。

図2.  交配育種とゲノム編集育種による優良ワキシー系統の作出

2016年に米国農務省動植物検疫所は、このゲノム編集ワキシー系統から作られた品種は農務省による遺伝子操作生物としての規制の対象外であると回答しています*4。アルゼンチン、ブラジル、チリといった国々の規制当局も同様の判断をしており、2019年には、生産農家による試験栽培が開始されました。このように、ゲノム編集農作物の先駆けとして開発されたワキシーコーンは、①これまで食品として長く安全に使用されてきた歴史があり、②生産から加工まで厳重な管理体制がすでに整っており、③自然界でも起こりうる突然変異を再現したものであることから*5、豊富な遺伝資源と遺伝子操作・解析技術を持つ同研究グループにとって、早くて安価なゲノム編集技術により開発された優れた農作物を市場に出す道筋をつけるための理想的なテストケースと言えるでしょう。

この記事の元となった論文

Superior field performance of waxy corn engineered using CRISPR-Cas9

(訳)CRISPR/Cas9を使って作出したワキシーコーンの優れた圃場性能 (2020年)

著者名:Huirong Gao et al.

Nat. Biotechnol. 38, 579 (2020) doi: 10.1038/s41587-020-0444-0

 

もっと詳しく知りたい方のために

*1 参考文献

A new type of Indian Corn from China. Collins, G. N. Bureau of Plant Industry (Bulletin) 161, 1-30 (1909)

http://library.um.edu.mo/ebooks/b28370405.pdf

 

*2 一定の形質を安定して持つ系統は、自家交配(自分の花粉で種を作ること、自殖)を繰り返すことによって得られ、このような系統のことを「純系」と呼びます(「ゲノム編集が加速するジャガイモの品種改良」の図1参照)。種苗会社は優良な形質を持つ純系系統を保有し、これを品種育成の材料として、また、品質の安定した種苗の生産に利用しています。

 

*3 一般に商品として販売されているトウモロコシの種は、高い収量性やその他の優れた形質を持つ純系の親系統を最適な組み合わせで交配した雑種、すなわちハイブリッドです。動植物には、遺伝的に異なる系統や品種間の交雑によって得られた雑種が両親より優れた形質を示すことがあり(これを雑種強勢と呼びます)、トウモロコシでは育種の初期からこの現象を利用した品種育成がおこなわれ、収量増加に大きく貢献してきました。しかし、優秀な形質を示すのは交配して得られた最初の世代のみで、これを自殖した次世代以降の形質は、ばらつきが多く均一な品質を保てなくなります。

 

*4 CRISPR/Cas9によるゲノム編集で得られたワキシーコーンに関する問い合わせに対する米国農務省動植物検疫所からの回答。

https://www.aphis.usda.gov/biotechnology/downloads/reg_loi/15-352-01_air_response_signed.pdf

 

*5 遺伝子組換え生物の国境を越える移動の際の取り扱いを定めたカルタヘナ議定書において、遺伝子組換え生物とは、「自然状態における生殖又は組換えの障壁を越える」技術の利用により得られた「新たな遺伝物質の組み合わせを持つ生物」とされています。従来の交配育種や自然突然変異でも得られるワキシーコーンのようなゲノム編集生物を遺伝子組換え生物として規制すべきかどうか、カルタヘナ議定書の締約国の間でも判断が分かれています。

  • 企画/解説担当者:髙須 陽子(農研機構)・津田 麻衣・髙野 誠(筑波大学)
  • 編集協力者:農研機構企画戦略本部新技術対策室・藤井 毅(JATAFF)
  • イラスト担当者:笠井 誠(農研機構)