ゲノム編集 を活用した「無花粉スギ」開発の研究施設見学会に参加しました

【イベントレポート】

(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所森林バイオ研究センター(以下、森林バイオ研究センター)では、ゲノム編集技術を活用した花粉ができないスギ(無花粉スギ)の開発を進めています。

この無花粉スギの研究を行っている施設の見学、研究者との意見交換を行う見学会(2021年11月16日開催)に参加しましたので、その様子をご紹介します。


森林バイオ研究センターはどんなところ?

森林バイオ研究センター(茨城県日立市)では遺伝子組換えやゲノム編集などのバイオテクノロジーを利用した樹木の育種が行われており、そのうちの一つの取組みとして「無花粉スギ」が開発されています。

植物の培養を行う「組織培養棟」、安全性に配慮された「遺伝子組換え実験棟」、林木用として国内最大の広さを持つ「特定網室」、「隔離ほ場」が完備されています。

花粉がおよぼす影響と従来育種

スギやヒノキの花粉は、咳やくしゃみ、目のかゆみなどの花粉アレルギーを引き起こし、私たちの生活や経済活動に深刻な問題を与えています。

日本では約2.5人に1人がスギ花粉症と言われています(2019年の統計から)。日本の人工林面積の4割がスギであることから、無花粉スギ*の開発が期待されていました。

森林バイオ研究センターに併設されている林木育種センターが開発した無花粉スギの「爽春(そうしゅん)」を成長や材質等の形質に優れた樹(精英樹)と交配することにより、「林育不稔1号」や「林育不稔2号」という成長が良い無花粉スギが開発されています。

現在は、精英樹同士を交配させた、第2世代精英樹(エリートツリー*の開発や、「林育不稔1号」等の無花粉スギとエリートツリー等を交配させることで、さらに優れた特性を持つ無花粉スギの開発を行っています。


*1富山県では在来種から無花粉スギを見つけ出し、全国で初めて無花粉スギの「はるよこい」を品種登録しました。

*2エリートツリー:精英樹同士の人工交配等により得られた次世代の個体の中から選抜される、成長等がより優れた精英樹のことで、これまでの苗木に比べて成長が優れています。そのため、建築用の木材を得るために普通のスギは植栽してから50年後に伐採を行うが、エリートツリーの場合、30年で伐採が可能と期待されます。また初期成長が速いため、下草刈り(雑草除去)の作業が減りコストカットになると期待されています。

なぜ、ゲノム編集で無花粉スギを作るの?

自然界から見つけた無花粉スギとの交配は非常に時間がかかり、新しい品種を作るまでに10年以上の時間が必要で、大変な作業となります。

ゲノム編集は狙った遺伝子に突然変異を起こすことができるので、短期間で無花粉スギを育成することができます。林木育種センターでは成長が速く、寒さに強い、特性の優れたスギの系統をたくさん持っています。これらのスギにゲノム編集を行うことで、スギとしての良い形質を持ったうえに無花粉という新しい価値を付加することができます。

ゲノム編集技術でどのように無花粉スギを作ったの?

スギの花粉はDNAを運ぶために頑丈な細胞壁を持っています。その細胞壁をつくる遺伝子の1〜数塩基をCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)により欠損させることで、細胞壁が作られなくなりその結果、花粉の形成を阻害することができます。

すでにゲノム編集技術により花粉のできないスギが作出されています。

ゲノム編集で作った無花粉スギはいつ実用化されるの?

森林バイオ研究センターでは、ゲノム編集により得られたスギの無花粉性を「特定網室」などの昆虫の侵入を防止した施設において、慎重に評価を行っているところです。今後は、無花粉性以外の生物多様性への影響の評価を行っていく予定です。

これらの情報をもとに農林水産省と事前相談を行い開発したスギは、「生物多様性に影響がない」と判断されれば、農林水産省に情報提供を行い、商品化が可能となります。

無花粉スギの他にも、二酸化炭素を貯めやすいスギなどの開発にも取り組んでいるところです。

◎見学会終了後、参加者は各自のSNSアカウントで#ゲノム編集、#無花粉スギのハッシュタグ(#)をつけて見学会についての情報発信を行いました。

(著者:森山 力・農研機構)